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**~ よけ藩国住人の、夜の楽しみ ~ [#ab0cb29e]
 
 

夜。それは、オトナの時間である。
 
 
幼子を優しく寝かしつけ、やんちゃ盛りからまだ青年に片足を足を踏み入れて足踏みしている年頃までをなんとかベッドに押し入れて、彼らの健やかな寝息を確かめて。

今日の雑務を片付け、明日の準備を整え。

そして、大人達だけの、密やかにして濃密な時間が始まる…。

 
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新月の深い闇の中を、灯りも持たず、単色の長いマントに身を包んだ人々が三々五々森の小道を抜けて集まってくる。
フードを深くかぶり、年齢も性別も定かではない。出会っても挨拶一つせず無言のまま、次々ととある家の小さな扉に向かう。

そして扉の影に一人たたずむ人物に、何かの記号の書かれた小さなメモを渡しては何かを受け取り、そのまま家の中に吸い込まれるように消えていく。

窓は厚いカーテンで覆われ、外からその様子をうかがい知ることは不可能。
そして部屋の中もひどく薄暗い。壁龕に置かれた燭台の上で頼りなげに揺れる細い蜜蝋蝋燭の明かりで、ようやく部屋…広間の中に適度な間隔で置かれた数台のテーブルの輪郭がぼんやり見える程度。もちろんお互いの顔も風体も、確認することは出来ない。

そして部屋の中もひどく薄暗い。

壁龕に置かれた燭台の上で頼りなげに揺れる細い蜜蝋蝋燭の明かりで、ようやく部屋…がらんとした広間の中に適度な間隔で置かれた数台のテーブルの輪郭がぼんやり見える程度。
もちろんお互いの顔も風体も、確認することは出来ない。

来るべき者達が揃うと、扉の脇に控えていた人物…その夜の幹事役が、最後に扉を閉めて内から魔法陣を描いて念入りに封印をし、おもむろに部屋の中に向き直った。

「さて、みなさん」

顔全体を覆うマスクをつけているためか、くぐもった声で幹事が告げる。

「お手元に、巴旦杏の葉をお持ちの方は、こちらへ…楓の葉は、あちらのテーブルへ…」

指示に従い、布の固まりが部屋の中をゆらゆらと音もなく移動する。扉で渡されたのは木の葉だったようだ。

テーブルの脇に立って目をこらすと、卓の真中になにやら入れ物らしきものが置かれている。

「お一人ずつ、どうぞ」

うながす声に、同じテーブルの周りに集まった者達の間で互いに牽制し合うような微妙な雰囲気が漂い、やがておもむろに一人、また一人と、鍋の中にマントの中からとりだしたものをそっと入れ物の中に落としては、壁際に後ずさった。

頃合いを見計らい、幹事は音もなく各テーブルを回り、入れ物の蓋を閉める。
そして、なにやらつぶやくと、彼の指の先にぽっ、と魔法の炎が立ち上る。その指を入れ物の下に近づけると、と入れ物の台がわりとなっていた小さな鉢の木炭に炎が広がり、テーブルをほの明るく照らし出した。

部屋中に緊張が走る。

フードの中から炎の照り返しを受けた瞳がぎらぎらと輝いて、各テーブルを見回している。
わずかな兆候も見逃すまいと、全身を緊張させ、身じろぎ一つすることなく、全員が五感を研ぎ澄ませてその場に立ちつくしている。

やがて、焜炉の火に暖められた入れ物からふつふつと妖しい音と共になんとも言えぬ匂いが部屋に漂い始めると、我慢できなくなったように体を揺すり始める者、息をのんで身を乗り出す者、鼻孔をふくらませ目を見開いて荒い呼吸をする者と、にわかに部屋の雰囲気が険呑なものになってきた。

その場の緊張が目に見えんばかりに部屋中に充満し、最高潮に達する寸前、絶妙なタイミングで幹事の声が部屋に響き渡る。

「さあ、時間です。皆様存分にどうぞ」

はじかれたように、参加者は目をつけていたテーブルに駆け寄る。そして最初にテーブルに着いた者が震える手で蓋をとる。
それぞれのテーブルから立ち上る異なる非日常的な匂いが、彼らを興奮のるつぼに落とし込む。
入れ物の中身を懐から取り出した器にわれがちに中身を移し、慌ただしく口に運ぶ。

はじける絶叫。また絶叫。笑い、悲鳴、阿鼻叫喚。

ああ、今夜は、いつにもましてすばらしい。

幹事はマスクを外し、一瞬にして混沌と化した部屋の隅で一人ほくそ笑みながら、救急箱から大量の胃薬を取り出した。

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いったい、いつの頃からだろうか。
この国の大人達の間で「闇鍋」が流行りだしたのは。
そしていつの間にか、「オトナだけの夜の楽しみ」として定着したのは。

食料生産が盛んでしかも多種の地形と気候に富んだよけ藩国では、食物素材の種類も豊富である。
加えて、タイガーライドや避けバイクなど、危険をうまく避けるゲームが大好きな国民性。
国内に星見司を多く擁することでは有名な、謎や未知なものが大好きな気質。

いつの間にか、よけ国の大人達は、この「闇鍋」の何にもましてスリリングで危険な香りに魅せられたのであった。


この催し物は、暗黙の内にルールが決められている。

1. 開催は新月の夜、参加者はオトナだけ。というか、こんな危険なことを未成年にはさせられない。
2. 幹事(場所提供、及び進行役)は持ち回りとし、参加者は非公開。
3. 一人一品、食べられるものを持参。それをチェックするため、幹事だけは赤外線スコープ付きのマスク着用が許される。
4. 親子夫婦の間柄といえど、持ち込む食材は互いに秘密。
5. 作ったものは、責任を持ってたいらげる。子供にいつもご飯は残さず、と説教している手前、オトナとしての矜恃を守るためである。尚、医者国家でもあるよけ藩では、この闇鍋文化の広がりと共に胃腸薬の開発発展めざましく(患者=医者であるので、当然と言えよう)、今では芸術的とも言うべき効き目の胃腸薬が普通に手に入る良い時代になっている。
5. 作ったものは、責任を持ってたいらげる。子供にいつもご飯は残さず、と説教している手前、オトナとしての矜恃を守るためである。
尚、医者国家でもあるよけ藩では、この闇鍋文化の広がりと共に胃腸薬の開発発展めざましく(患者=医者であるので、当然と言えよう)、今では芸術的とも言うべき効き目の胃腸薬が普通に手に入る良い時代になっている。

もちろん、思いもかけず素晴らしい結果になることも(たまに)ある。

今でも語り継がれている、一人が避け牛のできたて最上級生クリームを、一人が蜂蜜を、他の全員が果物を材料として持ち寄った結果、材料すべての絶妙の組み合わせにより最高のクリームフォンデュパーティとなった「第78回国立よけ病院女性看護士限定闇鍋会」はその最たるものである。
また、逆の意味で伝説となっているのは、まだこれらのルールが定着する前、海法陛下ご臨席の下で行われた[[「よけ藩国わかばさんいらっしゃい親睦大闇鍋会>http://eyedress.at.webry.info/200702/article_2.html」]]であろう。

また、逆の意味で伝説となっているのは、まだこれらのルールが定着する前、海法陛下ご臨席の下で行われた[[「よけ藩国わかばさんいらっしゃい親睦大闇鍋会(ナルシル氏作)」>http://eyedress.at.webry.info/200702/article_2.html]]であろう。


闇鍋を最後まで食して悶絶しながら自宅に戻った大人達は、それでも次の日は何事もなかったような顔で、忙しく仕事にいそしむ。

たとえ懐に胃薬の袋を忍ばせていたとしても、職業人として、良き家庭人として、にこやかにたち振る舞う。
そして、いつの間にか上着のポケットに入っていた、次の会合に誘う小さなメモに心ときめかせ、

そして、いつの間にか上着のポケットに入っていた、次の会合に誘う小さなメモに心ときめかせ。

新月に近くなるにつれ、出席者を推測し、さりげない会話の内容からその日に相手が食べていたおやつの種類まで、お互いの動向を探り探られながら己の食材に頭を悩まし、当日の夜更けまで心乱れながらもこれまた楽しい時間を過ごすのである。
 
 
一つとして同じものがない、スリルと笑い、知的推理を堪能できる、「闇鍋」。

一つとして同じものがない、スリルと笑い、知的推理を堪能できる、「闇鍋」。
これこそ、大人だけが享受できる、よけ藩国の秘めやかな夜の楽しみ。一人では味わうことがかなわぬ、大人のための快楽なのである。
 


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