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 紺碧が格納庫に“みちる”をしまうと、どこからともなく政庁スタッフが2人ほど駆け寄ってきた。

「紺碧さん、どうしたんですかこんな時間に。しかも“みちる”まで持ち出して」
「あ、あれ?紺碧さん、顔とか腕とか、怪我してませんか?」
「あ、えっと、“みちる”が無事に使えるかどうか、試してたんだけど、うまく乗りこなせなくて、座席から転がり落ちちゃったんだ、はは。ごめんなさい」

「紺碧さん」
「ん?いくら3までしか数えられなくても、機械を早々壊したりは……」
「これ、猫士用寮の基礎建築データですよね。どうしてこれが“みちるに”入ってて、腕のユニットが土にまみれてるんですか?」
「あー、えっとね、それは、その……」
「これは国民向け雇用対策として行うと、紺碧さん自身がおっしゃってましたよね?どうして紺碧さんが、この基礎工事をお一人で始めてるんですか?」
「あ、えっと、その……その……つまり……」
「あおひとさんや森沢さんの言ってるとおりでしたね。『紺碧さんはいつも一人で全てを抱え込もうとする』と」
「………このままじゃ国民の信頼は得られないと思ったんだ。私たちは結局、気ままにこの国にやってきて、問題を起こして、彼らの暮らしを邪魔して……。」
「だからといって、ご自分一人であれを建設するのは無茶だと、わかっていらっしゃるんでしょう?」
「……うん。それでも、何とかしたいと、思ったんだ。私はこの国の摂政だからね」

二人は、紺碧を見たあと、顔を見合わせ、“やれやれ”と言う表情を見せた。

「『患者は医者に痛みをわかってもらいたいんじゃない。治療して欲しいんだ』というのが、紺碧さんの自説でしたよね?」
「だったら、きちんと国内にお触れを出して、きちんと国民を雇用して、国民の衣食住と、それから安全を守ることをきちんと発表すればいいじゃないですか」
「そうだよ。そうなんだよ。だけど……彼らは私たちを憎んでいる。勝手気ままにやってきて、争いを起こして、そして国民の生活を破壊して……。この国は何回焼かれた?何度戦場になった?そのたびに犠牲になったのは、国民達だ。私たちはただ勝った負けたで喜んで、彼らをないがしろにした。その結果がこれだ。君たちも瞑想通信を使えばわかるだろう?燃え残ったエリアで生きてる人たちが、どんな思いで日々を生きているか」
「戦火がこの国を襲って、木や花を燃やしても、また植林すればいいじゃないですか。花を植えればいいじゃないですか。大事なのは、『何度こんな事になっても、できる限り彼らの安全を第一に考えて、国を復旧させること』です」
「それで、国民が信頼してくれると、思うのか?」
「いいえ。それでも、それを繰り返す限り、そう言った姿勢を見せる限り、いつかは私たちの思いをわかってくれるんじゃないかと思いますよ。特に、『結果』を重んずる紺碧さんなら」
「……わかった。国内全土にチラシを撒いてくれ。『寮の建築者、庭師、メード募集』と。日当は個人のスキルを見て決めるけれど、最低でも50よけにゃんにゃんよりは下げないと。並行して彼ら作業に従事してくれる方達に、仮設住居を提供すると」
「瞑想通信でなくてよろしいのですか?」
「たぶん、それは彼らが嫌がるだろう。だから、チラシを手形にして、人を集める。口約束じゃなく、そのチラシを持って現れた人たちを優先的に雇う。それと併せて、戦災で住居を失った方々へ仮設住居の提供と食事の配給を始める。あとは、正式な政策が発表されれば、国内も少しは安定するだろう」
「了解であります」
「かしこまりました」
「……頼む」

紺碧は二人に略式礼をすると、格納庫を出て行った。
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