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0720 内政ゲームで国民を取り戻せ!より

青空教室と眼鏡先生 †

「これで光の性質とピンホールカメラの説明は終わり。さあ、今日の授業はここまで」
男が手を叩くと、子供達は歓声をあげて立ち上がった。

「ありがとうございましたー」
「せんせーありがとうございましたー!」
「おもしろかったー」
「見て見て、私の顔ちゃんとれてるー」

森に囲まれた小さな草原に、元気な子供達の声がはじける。

「おいおい、今日の夜は特別授業の天体観測やるんだろう? 早く家に帰って、夜までちゃんと休んでおきなさい」
「はーい」
「またねー眼鏡先生!」

しばらく子供達の駆け去る姿を見送った後、男はやれやれと額の汗をぬぐいながら、近寄ってきた女性を苦笑で迎えた。

「いや、学会発表より何倍も緊張するよ。慣れないし、思いも寄らないことを聞いてくるし」
「ふふ、でも楽しそうでいらっしゃいましたよ?」

彼…よけ藩国でマッドサイエンティストにして医者を職に持つ男は、美しい秘書に用済みになった授業の資料を手渡した。

「それで、治療を必要としている人は?」

彼が子供達相手に青空学校の授業をしている間、彼の美人秘書は児童の親達から、生活上での心配事等の情報を集めていた。

「ええ、風邪を引きかけている赤ちゃんが2名ほど。打撲1名、切り傷若干名。お年寄りで腰の具合が悪い方1名。幸いなことにこの地区には緊急に治療を必要とする方はいらっしゃいませんでした」
「わかった、後で回ろう」
「修理など土木作業が必要なところのアンケート用紙は、夜の授業の時に、子供さんを迎えに来る親御さんから先生役の星見司さんが回収して案件を整理後、理力建築士の事務所に送ってくれるそうです。ああ、アンケート用紙を配ってるときに、皆さんが特に壊れた橋を早く直して欲しいと仰っておられました」
「ありがとう。橋の件だけ先に瞑想通信で連絡しておくか…いろいろとすまないな」
「いいえ、どういたしまして……あら?」

彼女の声と視線に振り返ると、さっきまで授業を受けていた子供の一人が、なにやらもじもじしながら彼の後ろに立っていた。

「どうしたの、忘れ物かな?」

自分が、日頃は何をやっているか周りに不気味にすら見られているマッドサイエンティストであることは自覚しているため、授業の時にもましてなるべく優しく声をかけると、子供は恥ずかしげに包みを差し出した。

「あの、これ……畑でとれたんで、おかあさんが先生に持って行きなさいって。お口に合わないかもしれないけれど…って…」

包みを開けると、ほかほかと湯気を立てた芋が何本も入っている。

「ありがとう、これ先生の好物なんだ、すごく嬉しいよ。お母さんにもよろしく伝えてくれな」

その言葉に、子供はぱっと顔を輝かせ、頷くとまた軽い足取りで森の中に消えていった。

「一緒に食うかい? 茹でたてだよ。あの子、一生懸命走ってきたんだろうなぁ」

伊達なモノクル眼鏡に白衣の男と、きっちりスーツを着こなした美人秘書が、草原に座ってふかし芋を食べている図というのはなんとも奇妙な光景であったが、本人達は気にしなかった。

「避難先から帰ってきたばかりで、まだ生活も楽ではないでしょうに…あら、美味しい」
「気持ちが嬉しいよなぁ」

2人はしばらく無言で、大地の恵みを味わった。

「もっともっと、こういった一般の人たちの暮らしに入って、みなさんの希望や気持ちをきめ細かに上に伝えられたらいいですね」
「うん。こういった学校・地域のネットワークを縦にも横にも広げていこうと、知り合いの法官や護民官もそれぞれ国語や倫理の先生になって頑張っているよ」
「この国を、みんなでやれることからやって立て直しているんですね」
「信頼を取り戻すには、まず自分たちから行動して、肝心なのはそれを続けることだ。先は長いな」

大事に最後まで食べ終わると、夕方の訪れを告げる少し涼しい風を感じながら2人は立ち上がった。

「さて、じゃあ診療に回ろうか。あと少しがんばってくれ」
「了解です、ドクター」

素朴な心づくしの味にエネルギーを充電した2人は、背筋を伸ばして再び仕事へと向かった。

(文:森沢)

†

ぐつぐつと音を立てる大釜を、飛翔はひたすらかき混ぜていた。
もうもうと立ち上る白く熱い湯気にあてられて、耐えられなくなるとだーっと近くの水桶に走っていって顔を洗い、そしてまたあわてて戻ってくると再び渾身の力を込めてかき混ぜるという、ぼこぼこと泡立つ濃密な液体との飽くなき戦いを続けていた。
念のために説明すると、自分の人生を語ることで相手の涙を誘うという魔法使いとして妖しい魔女の魔法薬をつくっているのではない。
かき混ぜる道具も節くれ立った木の枝ではなく、白木の大しゃもじである。
ついでに、勿論黒いマント着用ではなく、白い割烹着と三角巾という勇ましい出で立ちである。
失政やらアクシデントやら、様々な要因により荒れた国から着の身着のままで離れていった難民達が、内外の大勢の人達の献身的な努力と助力によって少しずつ戻ってきている。
彼らを迎え入れる国境近くの一時避難所では、故郷へ帰るための交通手段の確保や、各地方の情報提供、職や住居の斡旋等を、政庁のスタッフ総出で行っていた。
ついでに、懐かしい故郷の味を一足先に味わってまずは落ち着いて貰おうと、避難所の一角で野外炊き出しが行われているのだ。
そして彼は、よけキャベツとよけ鳥、よけ牛のミルクのたっぷり入ったシチューを巨大な釜で一気に数十人分作っているのだった。
「第3弾のお鍋が全部空になったよー。みんないい食べっぷりだよ~」
配膳をしつつ、診察が必要な人をチェックして診療所へ送る係を引き受けた森沢が、にこにこしながら空の食器を運んできた。
「もうそろそろ、出来る?」
「おお、もうちょっと」
飛翔は、近くの缶から乾燥ハーブと塩を豪快に手づかみして、釜に放り込んではまたひとしきり混ぜる。
香ばしく、そして優しい香りがあたりに漂った。
「あと、ひと煮立ちしたらできあがりだねー」
気がつくと、ちょうど近くを通りかかった難民の一人が、ふと立ち止まってこぼした涙を服の裾でぬぐっていた。
「あ、あら、どうしたんですか? どこか痛いところでも?」
あわてて森沢が駆け寄ると、その中年の女性はいいえいいえ、と手を振った。
「いえね、亡命先でも手に入るものや配給品でも、家族の食事はそれなりに頑張って作っていたのだけど、どうしても家で作るようにはいかなくてねぇ。で、今気づいたんですよ。これが足りなかったんだって」
彼女は大きく、息を吸い込んで、ため息のようにはき出した。
「この香り。森と土の香り。樹や草の香り。この生まれ育った国で育った香りが足りなかったんだねぇ」
「ああ」
飛翔と森沢は顔を見あわせ、頷いた。
「じゃあ、これ少し持っていきます?」
飛翔は小袋に乾燥ハーブを詰めて、女性に差し出した。
「貰っていいのかい?……ありがとうね、お兄さん。もし…またちゃんと生活できるようになったら、今度はうちで作ったのを持ってきてあげるよ」
「ありがとう、楽しみに待ってるね。」
「皆さんがちゃんと美味しいご飯が作れるように、私たちも頑張るから」
手を振り振り、去ってゆく女性の背に向かって、2人は誓いを込めて声をかけた。
「うん、ほんと、がんばらなきゃ」
「よし、完成。さあ配ろう」
「了解、みんなー手伝ってー」
「おらおら、ちゃんと一列に並んでくれよー」

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しゃもじをおたまに持ち替えてばらばらと集まってくる人々に向き直り、飛翔はひたすらシチューを釜から椀に注ぎ続けるという難行に取りかかった。
優しく懐かしいシチューの香りに包まれていると、それもあまり苦にならないな、と思いながら。

(文:森沢/イラスト:黒崎克耶)

いつの日か、帰る人々のために †

共和国動乱において、田畑や家や人を守っていた人達がいる。自警団や政庁の職員達である。彼らは、自分のためにと言って、結果他人のために必死に闘った、縁の下の力持ちだ。彼らがいなければ、ACEの獅子奮迅も、成果をあげられなかっただろう。そして、今、ここ海法よけ藩国では、難民になった人達に戻って来て貰うため内政政策が行われていた。

「だいぶ良くなってきましたね。」暴動で守りきれなかった、田畑の修復を手伝っていた。理力建築士が体を伸ばしながら言った。
「もうひと踏ん張りだ…。」と額に汗を流しながら、文句も言わずにもくもくと働く農家の人。
しまったという感じで、慌てて謝る、理力建築士。

「すみません。我々のせいでこんなことになってしまったのに…。」
「…正直、迷惑なのは確かだ。でも、ご先祖様の残してくれた土地、文化、難民になった仲間のためなら働ける。」
「ありがとうございます。」
「…礼なんか要らん。ところで、夜國晋太郎さんの調子はどうだ?あの方は、俺達のために働いて凶弾に倒れたんだ。見舞いのひとつでも、持って行かにゃならん。」
「快方に向かっていると聞いています。今は森で瞑想していらっしゃるのではないでしょうか。」

破顔する農夫。

「そうか、守られて倒れられたんじゃ、寝覚めが悪い。それは本当に良かった。」
「はい。」
「よし、後少しだ。早く終らせて。見舞いに行こう。」
「はい。行きましょう。」
理力建築士は、縁の下の力持ちに、心の底から感謝すると。自分の仕事に戻ることにした。
難民と化した国民が、いつでも戻ってこられるように。

(文:不離参)

ある夫婦 †

 少し小高い丘の上に、二人の人物が立っている。難民と化した国民向け施策の一環として藩王自らが宣言し、実際に開かれた青空学級を遠くに見ながら片方がつぶやく。どうやら今の時間は、は眼鏡をかけた先生役が、何か科学の授業のようなことをしているらしい。

 二人は夫婦で、内政不信により国を脱出した元よけ藩国の国民だった。

 『もうこんな国は信用できない。国を出よう。帝國ってところに行けばもう少しマシなんじゃないか?』
 『国なんて、どこに行っても同じよ?』
 『それより、あんなのよりはよっぽどマシじゃないか』

 二人はそれぞれ、ISS崩壊事件を思い出す。瞑想通信により国内にあっという間に広がった、事件の核心。男は妻の手を引いて国を脱出したが、行く宛もなく、難民キャンプで寂れた暮らしをしていた。

 「確かに、非は私たちにあります。ですが、この国を支える者すべてが、皆同じというわけではありませんよ」

 後ろから聞こえてきた声に、男は振り向き、半歩下がる。丘の上に登ってきたのは、海法よけ藩国国王:海法 紀光その人だった。政見放送やニュースでいやというほど声をよく聞き、顔も覚えている。間違いない、と男は確信した。

 「国王陛下、あなたは……」
 「あなたは、なぜ………」

 男には言いたいことが山ほどあった。鬱憤も、不満も、怒りも。だが、紀光王が背中に負った威厳と、彼の瞳にかすかに残る悲しみが、男の言葉を押しとどめた。

 「このたびは、国民の皆様に大変なご迷惑をおかけした。それは重々に承知しています。だから、こうやって、戻ってきて下さった方々に、お詫びして回っています」

 国王と言えば、偉そうな物言いをする、というのは昔話ではよく見かけるパターンだが、紀光王その人だけを見れば、おとぎ話の歴々の王とは違う印象を受けた。腰が低く、言葉遣いも丁寧で、王であることを知らなければ「背中に変な後光を背負ったおっさん」位にしかみえなかっただろう。

 女が男の袖を引く。男が何だ、と振り向く前に、女は口を開いた。

 「国王陛下。私たちはあなたの国から逃げ出した者です。でも、戻ってきてわかりました。あなたは今、必死に国を立て直そうとしている。自ら罪を背負い、それに応えようとしている。あれを見ればわかります」

 女は青空学級を指さす。楽しげに笑う、衣服がちょっとぼろぼろになった子供達と、おそらくは政庁のスタッフであろう大人が、ホワイトボードを黒板代わりに何かを伝え、一緒に笑っている。その向こうでは、女性達がなにやら大鍋で煮炊きをしている。広場の片隅では、摂政と思われる人物が簡易テーブルと椅子を用意して、放棄した住宅の様子や、職探しなどであろうか、難民たちの個々の相談に乗っているのだろう。ほかのスタッフは何かのパンフレットを1人1人に丁寧に配って回っている。誰も彼もが一生懸命に働いている。

 「そうです。私は国民の皆さんに戻ってきてほしいのです」
 「なぜ?」男が短く問いかける。
 「国は、人あっての物。国民の幸せが、国の幸せにつながります。今回の件では皆さんを不幸にしてしまった。だから、取り戻したいのです。皆さんの幸せを」

 紀光王は深く一礼した。

 「ほかにも帰ってきて下さった方々がいるようですので、挨拶に行ってきます。もし、何かお困りのことがありましたら、あの辺にいるスタッフに声をかけて下さい。皆さんを幸せにすることに、力を惜しまぬ者たちです。私はダメな王かもしれませんが、あなたたちも彼らなら信用できるでしょう」

 紀光王はそのまま、丘を下り、新しく現れた難民と思しき一行に近づいていった。

 「行きましょう」女は紀光王と反対側へ丘を下りていく。
 「どこへだ!」男が慌てて追いかける。
 「決まってるでしょう?私たちの幸せを取り戻しに」

 こういうときの女性の決断は速い。だが、男は丘の上で立ち止まっている。

 「だけど、そんなことはわかってるけどよ、だけど……」
 「王様だって言ってたでしょう?全員が同じなわけじゃないって。それにね」
 「それに?」
 「私、難民生活に飽き飽きしていたの。2人の家、恋しくない?」
 「家が無事ならな」
 「さっき王様が行ってたでしょう?『皆さんを幸せにすることに、力を惜しまない』って。とりあえず、あそこの相談窓口みたいなところで聞いてみましょう?」

 今度は女が男の腕を引っ張って歩き出した。丘を、緩やかな風が通り抜けた。その風は、いいにおいを伴っていた。とたん、男の腹がぐぅ、となる。

 「やせ我慢は無駄、ってことで。さっ、行きましょう」
 「わーかったよ」

 男は女に腕を引かれ、渋々といった表情を浮かべながら歩いていく。しかし、2人の歩みが心なしか速めだったことには、2人とも気づいていなかった。

(文:青にして紺碧)

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