トップ   新規一覧単語検索最終更新
   最終更新のRSS

*EV172種族を分ける~森国人篇~ [#c1f5e26c]
**魔法熱 [#lac6edc9]
T17において、共和国の経済麻痺に端を発して、燃料が必要な人々の間で自然破壊が進んだ。
その結果、植物の現象に伴い、NW各国で過剰に魔力が噴出、魔法熱が猛威をふるった。


魔法熱は体に魔力が蓄えられすぎた結果起きるもので、元々、森国でよく見られる病であり、アンチマジックベリーを服用して魔力を吸収する治療が行われていた。
そのため海法よけ藩国では、アンチマジックベリーのジャムを各国に送り、魔法熱対策の支援を行った。
**新しい森国人 [#xafc00d8]
魔法熱の流行が過ぎ去る中で、高濃度の魔力の中でも魔法熱にかかりにくい、魔力に耐性を持った体質の人々が現れ始めた。


強い魔力がある時、生物が変化・進化することは分かっており、そうした森国人たちにも体質面の変化があったため(それほど大きな変化ではないが身体能力が、多少優れている傾向にあった。)、当初は、魔力への適応も体質の変化によるものと思われた。
が、観察の結果、高濃度魔力への適応は、体質以外の部分が大きいことが分かってきた。


魔力耐性の秘密は、ひとつは、これまでどおり、アンチマジックベリーなどを利用すること、もうひとつは、旅である。
魔法熱は魔力が体に蓄積することで起こるので、そもそも、魔力が少ない所に行けば自然に魔力は体内から放出される。
そうした人たち、体内にたまった魔力の量を把握し、体内にたまり過ぎる前に、魔力の少ない所に旅に出ているのだった。
元々よけ藩国の一部に見られた、旅人の気質が、大きく広がっていったのだろう。


この頃、よけ藩国に迎えたアルブスヘイムからの移民も、近い気質を持っていたため、高濃度の魔力がある国に住む者たちの自然の知恵なのかもしれない。
**旅 [#dc02253b]
森国人は森を愛し、森に暮らす伝統を重んじる民であるが、そのために国土にこもりがちで、各国との交流が途絶えがちなところがあった。


大勢の森の民が、定期的に外の国を見まわることで、よけ藩国にも大きな変化が生まれるだろう。
他者の文化に触れ、また、自分たちの文化を伝えることで、問題や摩擦も生じるだろうけれど、それ以上に、互いを理解し、助けあう契機ともなるだろう。


よけ藩国のよけの心は、危機の前にともに助けあう気風である。もちろん、そうした気風は、よけ藩国だけのものではないだろう。
**SS~風の向こうへ~ [#w7a7e856]
風が吹いていた…。


森深き国海法よけ藩国。
自然との調和をはかりながら、巨大ドックを中心に森国人国家ながら工業化を推し進めて来たこの国は、借金大国でもあった。
森国人で工業力が無いのに、巨大ドックを建てた結果、外資で建てることになり、結果、いっそう借金がという状態である。
その後も、安い賃金で搾取される労働者たちの国と言いあらわされるなど。
あまり、良いとは言えない評価を受けていた。


…が、しかし…。


何故か、今この時は、この時だけは、借金を皆喜んでいるようであった。
はたから見れば、「宇宙に浮かぶ宇宙怪獣を見て、はたまたレムーリアの敵の話を聞いて、とうとう気がふれたのではないか?」という状況が妥当かもしれない…。
…何故か?
答えは、共和国の超インフレーション対策によって、デノミが行われ、にゃんにゃんの価値が、1/10000になったことにより、借金も1/10000となったためである。
つまり、借金が無くなった。
しかも、巨大ドックなどの施設は、そのまま海法よけ藩国の物として残ったのである。
お金を持っていないがゆえの、喜びである。
あまり手放しでは喜べないが、工業基盤となる巨大ドックが残ったのと、借金が消えて一から商売できるのはとても魅力的であった。
もちろん、この場合、誰かが得したというのは、誰かが損したということでもあり、単純に喜んでいい話とは言えないが、まぁ元気があるのはいいことである。


/*/


風が吹いていた…。
今や紙切れとなった、にゃんにゃん紙幣が風に舞っている…。


「皆、喜んでるなー。借金帳消しだもんなー。」
不離参がどこか遠い所を見ながらそう言った。
「何、遠い眼してるのですか、人間万事塞翁が馬、いや?この場合、国だけども。」
そんな不離参を見て、メビウスが突っ込みを入れる。
「いや…。嬉しいですけど、他の国も見ると手放しでは喜べませんよ…。私FROGメンバーですし…。」
下を見る不離参。
「あー。いやまあ。それはそうだけど…。」
頭を掻くメビウス。
「共和国では経済麻痺で、食料や燃料などが買えないですからね。飢え死にする人が出るかもしれない…。まあ、今、FROGで誰一人餓死者を出さないプロジェクトが行われてるから大丈夫なようですが。」
「おや?不離参さんは、手伝いに行かなくて良いの?」
「情報収集してるんですが、現場のスタッフさんから、要望が上がってこないほど忙しい状態で、どう動いたらいいか分からない状態です。なので、ダムレイさんと相談して、ふみこ顧問に手紙を出すところですね。情けないですが、第7世界人の私達より、NWを知っているのはふみこ顧問なので、FROGの指揮をお願いしようかと思っています。」
「なるほど。まあ、ふみこさんなら大丈夫だろう。」
そう言って、頷くメビウス。
そんなやり取りをしながら藩国を見て回る、二人の視線の先は、借金があって物が買えない状態から、借金が無いけど物が買えない状態になった、けれどもたくましく生きている海法よけ藩国国民の姿に注がれていた。


その時。


「あれ?あの人大丈夫すかね?メビウスさん。」
「ええ。咳きこんでますね。行ってみましょう。」
そう言って、急いで咳きこんでいる森国人男性に駈寄ると不離参が声をかけた。
「政庁の者です、大丈夫ですか?」
「げほっ。げほっ。ああ…。すまねえ…。急に咳が出るようになっ…。げほっ。げほっ。」
そう話しながらもまた咳きこむ。
「ふむ…。熱もある…。これは…魔法熱ですね。」
不離参が症状を見ながら、そう診断する。
「魔法熱?子供じゃあるまいしなんで…。げほっ。げほっ。」
「ここ最近NW各国で過剰に魔力が噴出しているようなんです…。燃料が買えないから。それで、体内に過剰に魔力が蓄積する人が増えて、魔法熱になる人がいるようです。」
そういって、懐から、小さな小瓶を取り出す不離参。
「なんだいこれは?」
「アンチマジックベリーのジャムです。解熱剤ですね。」
そういいながら、瓶のふたを開けると、匙ですくって、差し出す。
「楽になりますよ。どうぞ。」
「ありがとよ…。」
そういうと、男はジャムを服用した。
「さて、服用したら。世界樹の近くにいたほうが良いですね、子供のころを思い出して。幸いココは森国ですし。」
「そうするよ…。どうもな。軽度のうちに解熱出来て助かったよ。」
咳が落ち着き一息ついた男は、そういうと去っていた。
「あっ!そうだ、今アンチマジックベリーのジャムの量産の公共事業やってるんで、良かったら手伝ってくださーい!」
そう言う、メビウスに、後ろ手に手を振りながら、
「わかった!考えとくよ!」
と、言うとゆっくりと男は去っていった。


/*/


風が吹いていた…。
ジャムを煮る熱気が、風に運ばれて来て蒸し暑い、よけキングでは、NW各国の魔法熱対策のため、アンチマジックベリーのジャムが量産されていた。


「みんな、がんばろうねー。」
陣頭指揮を執る、海法がそう言った。
『おお!!』
それに対して、ジャム作りをする国民が気勢を上げる。
「各国困ってるから、困った時はお互い様だね。ジャム配布がんばろー!」
ここにいるのは、比較的魔法熱にかかりづらい人たちが多かった、魔力が体にたまり過ぎたら、魔力の少ない所に旅に出て、魔力が自然に放出するようにすることで、バランスを取っていた。
その比較的元気な人たちは、これから、量産されたジャムを配りにNW各国に旅に出かけるのだ。


「準備できました!!ジャムの配布の旅開始します!!」
1人の森国人が、海法の元に、旅の出発の報告に来た。
「おねがいします。藩国部隊はこれから宇宙に打ち上げられるから。」
そういうと、海法は宇宙を睨んだ。
「了解!!魔法使い部隊が宇宙行きってしまらないですね…。まあ、指揮とるから仕方ないですが。」
そう言って、打ち上げ準備で、「えー!?部隊ごと打ち上げ!?」とか騒いでいる、藩国部隊を眺めると、森国人は旅立って行った。


/*/


風が吹いていた…。
風が…。嵐が来た…。


藩国部隊が宇宙に、打ち上げられた後も、海法よけ藩国民は、旧来のよけ気質とよけの心を持って、みんなで頑張ろうと懸命に闘っていた。
EV176において、海法よけ藩国が島ごと吹き飛ぶその時まで。
最後の最後まで。


そして、現在。


EV176は、よけ藩国に多くの傷跡をもたらした。
旧来の海法よけ藩国民は、大半が助からなかったが、それでも生き残った人々はいた、よけ気質だのよけの心だの、みんなで頑張ろうだのもうどうでもいいように感じられるほど、皆疲弊しているようだった。
だが…。だがそれでも…。
生き残った人々はいる。


誰かが頑張ったからだ。生き残った人々は、一人一人が生き抜くべく頑張ったからだ。
そして無数の国や人々が、よけ国のために手を差し伸べたからだ。
明日を明るく語るのは今は難しいけれど、それでも人々は、今を生き延びて、瓦礫の中から明日を作る努力をしている。
復興へつながる努力を。


そんななか、海法よけ藩国の滅亡判定を前に、アルフズヘイムから、移民の方々が、流入を始めた。
移民の方々は、移民の条件として自治権を要求しており、海法藩王は、この要求を慎んで受け入れ、旧来の海法よけ藩国国民とともに、ゆっくりと対話を重ねていく予定である。


風が吹いていた…。
新しい風が…。
明日は、どんな風が吹くのであろう…。


風に弄ばれる木の葉のように先の予想はつかない。
だが…。
たどり着く努力を、怠らないだろう。
この国の人々は。


風の向こうにある、森深き平凡な日々に。

トップ   新規一覧単語検索最終更新
   最終更新のRSS