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[[国際救助隊]]の設定文ページです。

物量が多いため、分割しました。
※物量が多いため、分割しました。

*これが俺たち、国際救助隊(の実態)だ! [#jee41c9d]

 ここは、海法よけ藩国から&color(red){少し南に離れた位置にある小島};。本国の領土と比べると、地図に載せるのも面倒なくらいの小島に、それはあった。

『国際救助隊 訓練所』

それは、海法よけ藩国の正義最後の砦とも呼べる場所。あらゆる災害からすべてを救うために作られた組織。熱い志を胸に、入隊した隊員達は今。
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…………5分経たずに全員&color(red){椰子の木陰};でのびていた。

そりゃそうだ。照りつける太陽、まぶしい砂浜の上で、名医&マッドサイエンティスト時代に着ていた白衣&皮の衣装で走り出したのだから。

 次々と倒れ伏す隊員達を、クーラーの効いた詰め所で見ていた男は『おまえら、いくら命令だからってTPOってものを考えろよ。せめて&color(blue){ゴーグル};を取るとか、&color(green){皮の上着};だけでも脱いでおくとか、&color(purple){マント};を外すとかさぁ』とつぶやいた。
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 入隊初日に一通り施設の案内を受けたのち、「救助の基本は体力だ!ということで全員、砂浜でランニング!」と隊長から命令が飛ぶ。
隊員達は一斉に「おー!」とかけ声だけは勇ましく、砂浜目指して訓練所からめいめいに駆けだしていった。そこまではよかった。

 しかし。
森国人は基本的にやせぎすで体力なし。どっちかっていうと頭使う仕事の方が向いている。たとえば、薄気味悪い笑みを浮かべながら&color(purple){怪しい研究を続けるマッドサイエンティスト};とか、消えかかった命の灯火を呼び戻すために、新薬の研究にいそしんだり、1分1秒を削るべく&color(blue){メスをふるう名医};であるとか、そういった類の人種なのだ。

ということで、走り出したまではよかったが、照りつける太陽の下でのランニングで、1人倒れ、2人倒れ………全員あっという間に体力切れで倒れ伏し、近場の椰子の木の下で涼を取っていた。というか、這いずって木陰に入ったという方が正しいだろう。隊員達は、匍匐前進の基礎だけは教わらなくてもできているようだ。

「そう言えば俺たち、森国人だからねぇ……ぜぇぜぇ。1kmも走らないうちにこれだよ……。はぁぁ……」
「俺たちの体質からして、何というかこう、体力勝負より素敵メカとかで救助に向かう方が向いてませんか?」

這いずって顔を合わせた者同士がそんな言葉を口にする。

「でも、メカって……あそこにある&color(red){飛行機みたいなの};だろ?というか、あれだけ?ドリルとかはないの?」

1人が倒れたまま、&color(red){椰子の木を林のように密生させた場所};を指さす。林でカムフラージュしてあるが、そこには実は&color(red){滑走路};があり、奇妙な乗り物が何機か用意されている。入隊初日に、隊長からは施設案内の際、国際救助隊の存在を含め『正式発表の日まで、他国や他人には決してこれらのことを漏らさないように』と念を押されていた。

「宰相府が持っているって言う“フェイクトモエリバー”ではないですね。他国の飛行機系とも基本設計が違うというか、&color(red){似たものを見たことがない};というか……」
「最終的には、あれに乗って出動、だよな」
「でも、あれで近寄れない場所とかは、やっぱり降下したり、地上を走ったりして救助、が基本ですよね。それなら、頑張ってトレーニングに励まないと」
「じゃあ、何で僕らは、砂浜走っていきなりぶっ倒れてるんですか?」
「いや、だってほら、&color(green){森国人だから体力なし};でしょ?隊長だって『救助の基本は体力』って言ってたし。だからランニングで体力を補強しようと……」
「で、その隊長殿は今どこに……」
「どこに、ってそりゃ詰め所で……涼んでるよ、ちくしょう。俺たちには『ランニングしてこい』って言ったくせに……」

ぶっ倒れた隊員が瞑想通信で隊員詰め所を確認する。クーラーの効いた部屋で背もたれのついた、いかにも偉そうな人が使いそうな椅子に、隊長がふんぞり返っている。

「とりあえずですね」
「体力が復活次第、詰め所に戻って隊長にランニングの必要性を確認するか。……でも、もうちょっとだけ休ませて……」


照りつける太陽の下。
ぶっ倒れた隊員達の心はすでに一つになっていた。
頑張れ、国際救助隊!何をするのか知らされてないことも忘れるな!

(青にして紺碧)


*救助隊の心得 [#w82986e7]

 満足に走れずに終わったランニングの後、隊員達は体を引きずるように訓練所内のミーティングルームに集合した。めいめいがパイプ椅子に座り、隊長の言葉を待つ。

「よし、全員揃ったな。それじゃミーティングを始める」
「隊長!その前に質問があります」

へたばっている隊員の中でも、比較的若いと思われる1人が挙手する。

「なんだー?とりあえず聞いてやるが、その前に一つだけ言っておく。お前達は俺のことを隊長って呼んでるが、俺は隊長じゃない」
「「「なんだってー!!!」」」

それを聞いた隊員達が一斉に唱和する。偉そうに自分たちに命令する男を隊長なんだと、全員が頭から信じ込んでいたからだ。

「まずさ、俺とお前達の服装、見比べてみろ。俺の服装、どんな風に見える?」
「どんなって……アロハシャツと短パンとビーチサンダルですよね、それ」
「そう。ついでに言うと、このシャツもパンツも絹製だ。つまり俺は高位森国人なんだよ。国際救助隊には、入れねーの」
「「「じゃあ何で隊長やってるんですか!?」」」

一斉にツッコミが入る。

「ここはまだ設立されたばかりの組織で、先任士官もいない。教育係もいない、装備も満足に揃わない。そもそも、志願してくれたのはいいが、お前達は基礎体力が低い。だから、俺は政庁から監督役を仰せつかったんだよ。お前達の訓練が終わったら、お前達の中から隊長を選ぶ。自信があるなら、今から隊長に立候補してもかまわんぞ?ん?」

隊員一同が視線をさまよわせる。誰かが立候補しないだろうかと内心思い、うっかり指名されないかどうか、監督役と名のった男と視線を合わせないよう、誰もがうつむいた。

「ま、そういうことで、お前らは当分、みっちり俺がしごいてやる。ああ、そうそう、隊のユニフォームだがな、先行で試作品を作ったんで、そこのお前、ちょっと着てみろ」

監督は最前列の真ん中に座った隊員を指名し、自分の足下に置いてあった手提げの紙袋を渡す。

「なんか、やけに重いですね。……えーと。なんですか、この革ツナギは!」

隊員の1人が紙袋から取り出したのは、オートバイレーサー風の、白い革ツナギ。背中に大きく国の紋章、左胸にも小さく紋章があしらわれている。ブーツもこれまたライダーブーツ風で、色は黒。このブーツも革でできている。手袋も同じく白い革製。よけ藩国内だけでこれらの装備を見れば、よけ森で時折行なわれる「よけレース」用の装備に近い。下手をすれば、どこかの世界で行なわれている8時間耐久レースに出場できそうな装備だ。いくら皮の衣装が標準装備の森国人でも、南の島でこれはあんまりだ。

例外はヘルメットで、どう見ても土木用の黄色いヘルメットだ。しかも所々に汚れがある。

「何でヘルメットだけこんなに汚いんですか」
「ああ、それはだな。この間、国内で帰国民受け入れ事業の際にあちこち工事やっただろ?それをいくつか借りてきたからだ。つるはしも、スコップも、杭打ち用のハンマーだってあるぜ。それから飯ごう。現地で炊き出しが必要になった場合はそれを使え」
「そ、そんな……しょぼすぎる……」
「いくら何でもしょぼいから、装備品については俺から申請を出しておく。あ、この中に医者やマッドサイエンティスト上がりの者がいるよな?&color(blue){医療器具類はお前らが使ってた物};を持ち込んでつかえ。とりあえずお前らは、正式なユニフォームができるまで、この制服一式を着てトレーニングに励め」
「バカ言わないで下さい!このツナギ、めちゃくちゃ重いじゃないですか!」
「だが、耐火性はばっちりだぞ!」
「救助活動が火の中だけとは限らんでしょう?いくら僕たちが森国人だからって、こんなくそ重い服着てたら、海じゃおぼれます」
「わかってるよ。この制服はあくまでも試作品。トレーニングギブスの一種だと思っておけ。そのうち、錬金術師さん達に革ベースでユニフォーム向けの良さげな素材を作ってくれるよう、頼んでおく。あ、このツナギ、俺の手製だからありがたく思いながら着用しろ。ちゃんと人数分用意してあるから」

えー、そんなー、と隊員全員からブーイングが飛ぶ。

「あー、それとだな。お前達は名医とマッドサイエンティストが基礎になってるから、救護活動に不安はないと思うが、お前らはまず初期段階の救護活動に専念し、負傷者や患者の状態が安定したら、国立病院、もしくは指定の医療施設へ迅速に搬送すること。いいな?」
「「「はい!!」」」

今度は、隊員達から反論は起きなかった。ただ、隊員は全員、職業にマッドサイエンティストが組み込まれているので

&color(purple){「*マッドサイエンティストは任意の整備した一機のI=Dの一つの能力に×5.06(評価4)するかわりにそのパイロットを戦闘終了時に死亡させる」};

とか

&color(purple){「*マッドサイエンティストは美人秘書を指定でき、相手の職業4をサイボーグと出来る。指定が続くまでこの効果は続く。」};

などの特殊を許可なく使わないように釘を刺してしておこう、と監督はこのとき思ったという。

「じゃ、全員状況を理解したところで、まずランニング5km。腕立て伏せ100回と腹筋100回がおわったら、その次はロープ降下、火災対応手順の確認。それから、水難救助シミュレーションに機材操作訓練。喜べ、トレーニングメニューはまだまだあるぞ」

もはや隊員達の口からは、何の言葉も出なかった。国際救助隊というものが、森国人(の設定)にとって、どれだけ困難かを理解したからだ。体がぐったり、さらに心までぐったりした隊員達を励ますべく、監督は頭の中で一生懸命言葉を探す。

『そうだ、国際救助隊とはなんなのか、その誇りを思い出させればいい』

監督の頭の中で、何かがひらめいた。

「あー、諸君。ぐったりしないように。お前達は『国際救助隊』だ。文字通り陣営を越え、世界中で苦しむ人々を救って回る、いわばよけ藩国の正義の砦だ。その志を忘れるな」

うつむき、げんなりしていた隊員達の瞳に輝きが戻る。そうだ、ここは藩国の正義最後の砦。その言葉があったからこそ、救助隊員募集に応じたのだ。ここでなら、自分の力を最大限発揮できると、そう信じたからだ。

隊員達はゆっくりと顔を上げた。体は疲れ切っていたが、思いは取り戻せた。

「では、一同起立!」
「「「「はい!」」」
「それでは、全員、トレーニング開始!」
「「「了解です!」」」

隊員達はロッカールームに駆け込み、夏の暑い日にくそ重たい“トレーニングギブス”代わりの白ツナギに袖を通す。正式なユニフォームを、胸を張って着用できるその日まで、ただひたすら己の体を鍛え上げるのだ。

 そして監督は、『こんな一言で簡単に乗せられるなんて、うちの国民はわかりやすいです』と、後に政庁向けに提出した報告書に記載したという。

(青にして紺碧)


*一人の部屋で [#ae35d28a]

 一日のトレーニングメニューが終わって、隊員達はそれぞれの個室に体を引きずるように戻っていく。ここへ配属されて2週間。トレーニングのきつさには慣れてきたが、「トレーニングギブス」こと革ツナギはいただけない。すぐに汗臭くなるからだ。

 ある隊員は部屋に入ると、部屋に備えられた椅子に腰を下ろし、ふぅとため息をつく。そして同じく備え付けの机の引き出しから、便箋とペンを取り出すと、手紙を書き始めた。本国の研究室に残してきた、&color(purple){秘書};への手紙だ。

 彼はもともとマッドサイエンティスト出身で、秘書をこの島に連れてきても良かったのだが、秘書まで救助隊訓練を受ける必要はないし、向こうで使っていた器材をこの島に送ってもらう手配は、自分の秘書でなければ頼めない。

 中には、器材の一切合切と一緒に秘書を連れてきた者もいるが、この隊員はあえて秘書を置いてきた。自分が国際救助隊としてデビューできるようになったら、この島に呼ぶことにしようと決めていたからだ。

「前略。お元気ですか」と書き始めたところで便箋を破き、丸めてゴミ箱に捨てる。何もいちいち元気かどうかなんて聞く必要はないだろう、と考え直し、用件だけ書くことにした。

「ビーカーが2つ割れたので、代わりを送って欲しい。それからケイ素500g、ホウ酸200g、予備の&color(blue){手術服};を2着、一緒に頼む」

 これだけを書き終えると、封筒に入れて蝋で止め、本国行きの荷物留め所に置いた。3日に一度、本国とこの小島を結ぶ連絡機が飛ぶので、それで送ってもらうのだ。

 手紙を出して、また自室に戻る。そして、自分の部屋の中をぐるりと見渡す。ベッドは&color(blue){手術台};代わりに使えるよう、高さを調節できるように改造した。本棚には各種薬品やビーカー、フラスコ、試験管などが並んでいる。クローゼットには&color(purple){マント};、白衣、寝るときに着るパジャマ。テーブルの上には&color(purple){片眼鏡};が放り出されていた。引き出しの下の段にはメスなどの器材を、できる限り清潔な状態で保管してある。何もここまでやらなくても、とは思ったが、部屋の状態をできるかぎり本国の研究室に近づけないと、彼は落ち着けなかった。ある意味、マッドサイエンティストのマッドサイエンティストたるゆえんかもしれない。

 本国で[[森国人+医師+名医+マッドサイエンティスト]]のままでいれば、なんの不自由もなかった。マッドサイエンティストは怪しい職業、ということで後ろ指を指されたこともあったが、そんなことは全く気にならなかった。

 それでも彼は、国際救助隊に志願した。自分の研究を、研究室の中だけで終わらせてはいけない。もっと多くの人が、自分の研究成果や医療技術で救えるかもしれない。そう思ったから、志願した。自分の体力が貧弱であることが、頭の中からすっぽり抜け落ちていたのだけは、失敗だったと後になって気がついたが。

彼の選択は、マッドサイエンティストとしては異端で、名医としては無謀だった。彼だけではなく、そう言う意味では、ここの隊員達は皆似たような境遇にある。だが、誰もが「ここがよけ藩国正義最後の砦」であることを信じて疑わなかった。疑わなかったからこそ、隊員は少数だが国際救助隊の体裁を整えることができた。

本国の[[ダム]]には、密かに緊急医療設備やカタパルトで国内全土へ打ち出す救急車も用意されていたが、万が一本国に敵が現れた際、ダムを爆破して応戦ということになれば、あの医療施設は使い物にならなくなる。ここは、本国からは離れていたが、世界を股にかけた緊急活動のヘッドクオーターとしては万全だ。……未だ揃わぬ装備などをのぞけば。

 締め切ったままの部屋では、どうも空気が悪いなと、彼は部屋の窓を開けた。そして外の景色を見る。一面の砂浜と、所々に生えた椰子の木。いつ見ても変わらない風景。彼の部屋の方角からはあいにく、藩国の&color(green){大水車};もよけキングも見えないが、今日も藩国は平和だろうと、そう思うことにした。藩国に向けて&color(green){瞑想通信};を使わなくとも、本土方面の情報は詰め所で確認できる。何かあれば基地内で緊急警報が鳴るから、それでいい。それまでは体を鍛えておくことが先決だ。

そんなことを考えていると、ドアが2度、ノックされた。彼がドアを開けると、隣の部屋の隊員が顔をのぞかせた。

「今日の料理当番、俺とお前だっただろ?そろそろ厨房に行こうぜ。支度が間に合わなくなる」
「ああ、そうだったな。行こうか」

彼は笑って、自室を後にした。

(青にして紺碧)


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