《イラスト》
こちらは非公開ゲームにより、破壊されました
《設定文》
岩舞台
それはあまり人の立ち寄ることの無い渓谷の中にひっそりと存在していた。
時の流れていることを知らせる風の音と近く川を流れる水の音が静かな旋律を奏でるその場所には
岩でできた舞台がひとつと存在しており、それを囲うように細長い4~5mほどのほどの岩が等間隔に並んでいる。
この舞台を見たある学者は自信たっぷりここは古代の天体観測所だと言った、
またこれを見たある技師は少し考えた後に小型飛行艇の発着所だと言った、
二人の話を人伝いに聞いたしがない魔術師は遠い目をしてあそこはとある男が夢を終わらすためにと神々と魔術を行った祭祀場だと言った。
彼らの話のうちのどれかが真実なのだろうか? それとも全てが間違いなのだろうか? 今これを書いている私にはさっぱり見当がつかない
分かる事はひとつだけ、この舞台は今もそこに存在しているという事だけだ。
(神楽坂・K・拓海)
《設定文》
あおひとの冒険(仮題)
天から轟々と流れ落ちる滝を見上げながら川を遡り、渓谷の薄暗い霧を抜けた先にそれはあった。
鈴の音に呼び寄せられ、微かに聞こえてくる歌声を辿った先にそれはあった。
無言の聴衆である岩達にぐるりと囲まれた中心に、設えられた舞台の様にそれはあった。
そして壇上に佇む演者がこちらを振り返り・・・・・・
彼女は眼を見開き、声を失った。
/*/
「冒険に行きましょう」
積み上がった決済書類の山の向こうから、少女は唐突にそう切り出してきた。
あおひとは仕事の手を止めずに、そのポニーテールの少女に一体何の事かと再び尋ねた。
背中にナップザックを背負ったその少女から、返答の代わりに差し出されたのは一枚のパンフレット。
『あなたを待ち受ける絶叫の渦!奥地に待ち受けるのは、絶望か死か!
秘境!大水車谷への冒険――安全楽々日帰りコース』
・・・・・・煽り文句とコース名が真逆なのは気のせいだろうか?
「何これ?」
「冒険ですッ!」
「いや、だからどうして」
「血湧き肉躍りますよねッ!」
「だから、何で私」
「お弁当も用意しましたし、準備バッチリです。さぁ、行きましょうッ!」
少女は興奮に目を輝かし、話をまったく聞いてない。
さて、どうやって追い払おうかと仕事の手を止め、一瞬思案する。
・・・・・・ふと、少しだけ昔の事を思い出す。
入国管理局の手違いからか、見習い期間とも言えるわかば階梯もすっとばして、いきなり吏族に正式配属されていたこの少女は、冒険したい!と意気込んで来たのはいいものも、2ターン目以に降肝心の冒険イベントはまったく発生せず、やっと7ターン目のイベントで、待ち望んでいた羅玄王国地下への探検隊が結成されるも選に漏れ、しょんぼりしていた事を。
「ホントに日帰りなら良いよ」
ついうっかり漏らしてしまったこの言葉が後々後悔の種となるだろう事を、真に悲しい事にあおひとは言った瞬間、既に予感していたのだった。
/*/
女性隊員2名、
妙に元気な人1名、
死体が一体、
これが、急遽結成された探検隊、総勢4名の内訳だった。
あおひとがうっかり消極的賛成の言葉を漏らしてしまったあの後、
「あ、やっぱり止めとく」
の「あ」を口に上らせる前に、少女は
「分かりましたッ!じゃ、早速他の参加者も呼んできますね!」
と言うが早いか、あおひとさんは玄関前で待っていてくださいねー、という残響音を残しながらあっという間に走り去った。
そして、待ち合わせ場所に到着したあおひとの前に、他の犠牲者(?)共々既に到着している少女の姿があった。
「結城さんと青にして紺碧さんも参加してくださるそうです!」
あおひとは、その”自発的に参加してくださった”二人の隊員にそっと視線を向ける。
「冒険!やっぱり冒険はロマンだよ!夢に溢れているね!すぐ行こう!それ行こう!」
隊員の一人、結城は妙にハイテンションだった。
「結城さんは、今回のお話をしたらすぐに賛成してくれたんですよー」
「たまには仕事なんか忘れてぱーっと・・・・・・仕事、しご・・・・・・冒険!冒険!」
良く見ると目が虚ろだ。
青にして紺碧は前のめりに倒れていた。
「紺碧さんは政務室を覗いたら、暇そうだったので連れて来ちゃいましたー」
こんぺきからはへんじがない、・・・・・・ただのしかばねのようだ。
それは暇だったんじゃなくて、単に連日の激務で倒れていただけなんじゃないかと思ったが、言ったところで状況は変わらなそうなので黙っておく事にする。だって大人だし。
「あと、道中何が起こるか分かりませんので、色々用意してきましたですの!」
そう言った少女の背中のナップザックがパンパンに膨れている。
一体何が入っているんだかと良く見るば、隙間からロープやカンテラ、おたまや携帯用破城槌、さらには荷物に圧迫されて、ある意味生死を賭けた冒険を強要されている猫先生の姿が垣間見える。
・・・・・・あおひとは心の中で猫先生にエールを送りつつも見なかった事にする。だって、大人だから。
「では、しゅっぱーつ!」
そういうことで、元気な隊員2名を先頭にして、妙に疲れた人、引きずられた人がそれに続き、探検隊は出発した。
/*/
太陽は既に真上に昇り、容赦の無い日差しが既に初夏に入りつつある事を証明している。
あおひとはじっとりと滲み出てくる汗を鬱陶しく思いながら、現状を確認する。
前を行く少女は、足取りも軽く、まだまだ元気だ。
後に来る二人は、疲労の局地にありながらも杖にすがりつつ、なんとかついて来ている。
ちなみに二人の生命線となっている二本の杖は、「前回の欠点を改良しました!」と言って少女が自信満々に取り出し、やはり早々に打ち捨てられた、長さ4メートル半はあろうかという棒を原料としたものだ。
出発してから大分経つというのに、目的地につく気配はまったくない。
何しろ空の上に浮かんでいる大水車があまりにも巨大なせいで距離感がつかめず、近づいている実感が沸かない。
そもそも、大水車自体は有名でも、その真下に何があるかはあまり聞いたことがない。
・・・・・・谷なんかあったっけ?
現状確認完了。
絶望的。
パンフレットには確かに”日帰り”と書いてあったが、いまやその文字は賃貸情報誌の”徒歩5分”並に信用が出来ないものになっていた。
せめてもの救いは、現状危険がまったく無いことだろうか。
たまに日の光の煌きが見えたかと思うと、道の脇に野良避けろキャベツの千切りや、何故か丸裸になった避け鳥が泣きながら走り去っていく位で、いたって穏やか。
「せまりくるスペクタルー!目くるめく冒険ロマンー!ターンテーブルとか!脱出するまで崩壊しない迷宮とかー!」
道中があまりにも平和なせいか、少女がなにやら憤慨している位だ。
そもそも、野外なのに回転床なんてないと思うし。
そういうあおひとも疲労困憊で、思考だんだんと目の前の現実から逸れていく。
(あぁ、こんな事なら仕事を片付けていた方が・・・・・・というか、描き溜めてたアレとかアレとか進められたのに、次のムーヴメントはウサギでいこう、きぐるみでも、もちろんばにーさんでも、かたやふわふわのもこもこ、かたやストッキングから覗く魅惑のすね毛・・・・・・これは来るッ!というか、善行さんにも着せてみたい!早速帰ったら描こう、いや、今すぐ描こうそうしようすぐ描かねばこれは私に課せられた義務、いや天命に違い)
「あおひとさん」
(まずはラフね、ペンとスケブは持ってきてたかな・・・あったあった、これさえあればふっふふうー描こう描こう描きましょうー)
「あおひとさーん!着きましたよーッ!」
「えへへ、どんなの構図にしようかネゥ、いっそカップr・・・へ?」
思考が跳んでいる間にどうやら着いたらしい。
いつのまにか死体から復帰した二人の視線が生暖かいが、無視して指差された方を見る。
空から光が降って来る。
水晶の様に煌く光は、飛沫となった水に映る太陽の光。
絹の様に細かい霧は、遥か真上の大水車から大量に落ちてくる水。
わぁとかおぉ、と言う歓声。そして逸る足音。
「ちょ、ちょっと待ってってば!」
自然とあおひとの足も駆け出し、にわかに元気付いた一行は霧の奥へと進んで行く。
大水車に長い時間穿たれ来た来た深い谷は、霧の衣を纏いその身を隠していた。
「涼しいのはいいけど、何も見えないねー」
そして、霧に囲まれた探検隊一行はすっかり迷っていた。
「ホント霧でなーんにも見えませんねー」
後ろの紺碧と結城も思案顔だ。
「磁石はどうなんだ?」
「方向分かった所で目的地が何処にあるか知らなきゃ意味ないでしょう」
「そりゃそうか」
"リン・・・・・・"
「・・・・・・ん?」
何か聞こえたような気がして、ふと立ち止まり周りを見回す。
「どうしたんですか、あおひとさん?」
「何か・・・鈴の音みたいなものが聞こえなかった?」
一斉に首を振る3人。
"リン・・・・・・"
「ほら、また!」
「やっぱりあおひとさん、連日の激務で・・・・・・」
「さっきもなんだか目がトンでたしね・・・・・・」
「まぁ、ここは我々が暖かくフォローを・・・・・・」
「ちーがーうー!」
というか、さっきまであなた達も死んでたでしょーが!と突っ込むも、返って来たのはヘタクソな口笛だけ。
確かに聞こえたのに、でも聞こえたのは自分だけ、もしかしてホントに自分だけが幻聴でも聞いているのかしらんと、ちょっと背筋が寒くなってきた頃にそれ再び来た。
"鈴!"
呼んでいる。
「あ、あおひとさん!」
そう思った瞬間、呼ばれた方向へとたまらず走り出す。
「はぐれると危険ですッ!」
前は霧で何も見えない、でも何処から呼ばれたのかは分かる。
こっちだ、こっちだ。
鈴の音に導かれ、纏わりつく霧をかき分け、ひたすら走る。
ごうっ
突如の突風に身がすくみ、足が止まる。
そしてその風は、あおひとたちの足を止めるだけでなく、谷を覆う霧を綺麗に吹き飛ばした。
そして、其処にそれはあった。
目前に大水車を臨み、両側を絶壁に囲まれたその谷間にそれはあった。
流れ落ちる滝は谷底から川となり、その川の中州のような場所にそれはあった。
そして、あおひとは確信を持ってその中心に―自分を呼ぶものがいる場所へ視線を向けた。
/*/
ストーンヘンジさながらに周りを石柱で囲まれたその中心、まるで舞台の様に据えられた岩の上に彼はいた。
長い裾の服を着た、長い髪の男は、長い剣を持ち、長い長い歌を歌っていた。
"凛"
誰彼と問う間もなく、あおひとの目に数多の光景が映りこんできた。
その誰かは、誰かを守るために歌っていた。
その誰かは、何かを終わらすために歌っていた。
その誰かは、何かを始めるために歌っていた。
その誰かは、全てを祝福するために歌っていた。
誰も知らないその歌は、七つの空に穴を穿ち、全ての人に歌われる歌。
"凛"
男が、幕を開き、閉じる場所である舞台の壇上からあおひとを見た。
奇妙な服を着て、手に鈴のついた剣を持った短髪の青年は、普段は猫背気味な姿勢も今はグッと伸ばし、顔に少々不健康さを滲ませながらも、そこだけは力を失わない澄んだ瞳で彼女を見た。
その瞳の色は青く、何処までも青い青で・・・・・・
"鈴"
「・・・ひとさん、あおひとさん!」
「はにゃ?」
「ボーっとしてましたが、熱中症にでもなりましたか?」
ハッと我に返ると、紺碧の心配そうな呼び声にも返事をせずに岩舞台の上を確認する。
そこに彼はいた。
でも、彼の着ている服はバミューダパンツにアロハシャツで、手に持っているのはいつものペンだし、背を猫背気味に丸め、暑いのか長い髪を鬱陶しげにかきあげていた。
顔が不健康そうなのはいつもの事で、その瞳の色はメガネに照り返された光で確かめる事は出来ない。
「陛下、こんな所で何をやっておられるのですか?」
また仕事を避けられて・・・よよと泣き崩れる摂政に、やぁ悪い悪いとそんな事を露とも思ってない返事を返しながら陛下と呼ばれた男―海法は答えた。
「考えていたんですよ、誰も涙を流さないで済む方法を。」
そう言って背を見せた彼の衣服には、苔が微かにこびり付いていた。
「寝てた」
「寝てたな」
「寝てましたね」
「その場の思いつきで言ってますね、アレ」
考えていたのは本当なのになぁ、としょげ込む藩王をよそに、あおひとはあらためて目の前に広がる景色を見渡してみた。
渓谷の中州とも言えるこの場所には、他に人の気配も無く、空気は静謐さを保っている。
耳を澄ませても聞こえてくるのは水の音と風の音のみで、微かに聞こえた気がする鈴の音も今は沈黙を伝えるのみ。
そして、目の前にはテーブル状の岩がひとつ横たわっており、その周りを柱状の岩が等間隔にぐるりと囲んでいる。
自分の郷里も蛇塚とかいう似たような岩があったのを思い出す。あれも舞台と言うのは名ばかりで実際は石室だったわけだが、こちらも周りの空気も相まって"舞台"と言うよりはむしろ"祭壇"と言う表現のほうがふさわしい様に感じる。
「何のためにあるんだか」
あおひとは一人つぶやいてみる。
「魔術を行うためにだよ」
海法が岩の上からあおひとに答える。
「・・・・・・何の魔術ですか?」
誰かに聞かれるとは思ってなかったので、少々うろたえながらも疑問を投げる。
「流れ落ちる涙を止め、笑顔を取り戻すための」
真面目な顔で答える彼に、なんだか茶化す様に答えてしまう。
「・・・・・・全ての人に?」
「うん・・・・・・あぁ、もちろんあおひとさんもね?」
少年の様な笑顔でそんな事を言ってくる彼に、原稿落とさない程度に頑張ってくださいまし、と答えながら目を逸らす。
耳が火照ったように熱いのは黙っておく。
だって、大人だから。
/*/
日は暮れ、渓谷全体に夕日の色が染み込んでいる。
なんだかんだで、来てみて良かったのかも。
そんな風にあおひとが思えたのも束の間の事で、それはどれ位の長さと言うと、後ろを振り向いて仲良く疲労で倒れた3人に気付くまでの時間位だった。
結局、海法が載ってきた避けタイガーに再び死体となった紺碧と結城を積み込み、気楽に眠っている少女は背負って出発、二人が疲労困憊ながらも政庁に辿り着くのは大分夜も更けた後の事になる。
ちなみに、あおひとと3人(強制手伝い)が貯まっていた仕事を片付けて机に突っ伏すように眠りに入ったのは、空が白み始めた頃の事だった。
(ちは)
名称:・岩舞台(施設)
要点:・渓谷の中の岩舞台
周辺環境:・川
評価:-
特殊:
*岩舞台は、一人の英雄を選んで時間移動をさせるか、一人の人の心に闇を払う銀の剣を出現させることが出来る。この効果を選んだと、岩舞台は崩壊する。
→次のアイドレス:・合唱(イベント)