よけ藩国の一辺にあるとある小さな森…その森の中に小さな広場があった。
木漏れ日差し込む幻想的な空間に小さな切り株一つあるだけのささやかな空間、その空間に、オブジェのように一人の老人がいた。
一人の老人(ダンマルク・サルケル氏、79歳)は静かな森の中で切り株に腰掛、ゆったりとながれる時間を満喫していた……
いや、満喫している筈だった、1日をゆったりと、ゆっくりのんびりと過ごしている筈だったのだが……
そのダンマルクの頭には冷や汗が浮び、息遣いは荒く…そしてその手はフルフルと震えていた……
「まさか今の子供達があそこまで元気だとはのう……よくあぁまで動けるもんじゃて…本当に…」
ダンマルクはそう呟くと…木漏れ日差し込む森の中、ほっと溜息を付いた……時は2時間ほど遡る……
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その時、ダンマルク爺は溜息をつきながら切り株の上で舟をこいでいた…コックリ、コックリと……
静かな時間、暖かい日差しの中でまぁ当然と言えば当然のことだったのかもしれないが、今日は違ったようだ……
ヒュン、ヒュヒュン
何かが風を切って飛んでいる様な音にダンマルク爺ははっと目を覚まし、そして次の瞬間にはダンマルクの横を何かが通り抜け……
そして コン…コ、ココ、などという音を立ててぶつかった……そして転がったのは……木の実だ、こう当たると地味に痛そうな……
キャッキャ、ハハ、キャッキャ
そんな声が後ろの方から聞こえて来る……それはまるで天使のような、純粋で、なおかつ……いや、あえて言うまい……
ダンマルクは軽く頷いた後に立ち上がると、
「何をやっとる、この童どもが!そんな弾幕ではわしに当てることなんぞ出来んぞ、当てたいなら今まで国に降りかかった事件を
超えるものを投げぃ!」
ヒュン、ヒュン、シュ、シュシュ、 また何かが飛来してくるような音が聞こえる…数的には3割り増しだ
ダンケルク爺は微かに揺れているだけのようにしか見えなかった…それもあくびをしながら……
そして続くようにココ、ッカ、カカ、ピシ、ピシ
そんな音が後ろから聞こえて来る……ダンマルクはまだ切り株の上だった
「ほれ、もっと投げてみんかぃ、ほれ、政府が秘密戦艦を発掘した時の驚きにもかなわないぞ」
ムっとした雰囲気がし、走り出す子供達の姿がしかいに映る……何人もいるようだ、見た感じはエルフだったりハーフエルフだったり…
ぱっと見えるだけなのに随分といろんな子供が目に映る……そして……
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そこはダンマルク爺から死角になっている茂みの中、エルフやハーフエルフの子供らがダンマルク爺に見つからないように
小さくなりながらその時集まっていた友達と次はどうするか話し合っていた……
まずダンマルク爺に木の実を投げていたガキ大将らしき男の子は、見事に一発も当たらなかったのを見て
「ダンマルク爺め、なんで当たらないんだ、どう見ても当たっているのに何でだよぅ!」
「どうみても当たっているのにね……これで0勝29敗……でも毎回言う『ひみつせんかん』とか『白のおーま』ってなんなんだろう…」
「おばあちゃんに聞いたら今までこの国があって来た事件とか苦労だってさ」
「この前の『白のお~ま』って?」
「藩王様の好きな人にそっくりな『あらだ』が攻めてきたんだってさ、それで皆でおしろにこもってまほ~とか
理力~を使って帰ってもらったんだって。」
「その前言っていた?『ばっ金事件』とかは?」
「藩王様が大活躍したんだけど、すごくお金がかかったんだって、それを皆に助けてもらいながら頑張ったんだってなんとかしたんだって。
それはもう凄い働きだって言っていたよ。」」
「たまに爺さんが叫ぶ『避けのこころえ』とかもわからないよね」
「お母さんが言っていたよ、『かすり避け』は基本なんだってさ」
「父さんが言っていったね、『しょりおち』をうまくりよ~すれば道が開けるだって」
「兄さんが言ってたよ、時には思い切って『ぎゃんぶる』に出ないとよけきれないって」
「おじさんはランドルク爺は今までの全部を見てきたよけの魂を引き継いだやつだって言ってたよ」
「それて一体なんなんだろう……」
「だからランドルク爺を倒して教えてもらおうぜ、次は投げる方向を増やしてみよう、きっと倒せる」
「それでいこう、」「『あんぜんちたい』もきっとないよね、がんばろ~」
「行くぞ、今度こそ!」
「お~」
子供達はまた散っていった……膨らんだポケットに沢山の弾幕の材料を詰め込みながら…
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ダンマルク爺は隠れているつもりが普通に見えている子供達をみてにやにやしながら立ち上がった……
「ほれ、何処から来るかわかってるぞ、はやく始めんかい!」
子供達は一瞬ビクッと震えたが、ガキ大将っぽい子供が叫ぶ
「今こそ『ぎゃんぶる』に出るんだ!俺たちに勝てる奴なんかいない、行くぞ!」
「お~!」
子供達はそれに応えるように同時に木の実を投げ始めた……
投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、ただひたすらに弾幕を張った。
それは見事な連携だった、エルフやハーフエルフなんてものは関係ない、ただ楽しそうな子供達が弾幕を形成していた
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン
始めの時の5倍ほどの木の実が辺りを飛び交い始める…それこそ広場じゅうに……
「いて」
「ぎゃ」
「っつぅ」
「なんでこんな所まで」
どうやら投げすぎたらしい……殆どの子供達は痛い目を見ていたが……
中には避けて弾幕を作り続ける子達がいた……
「僕のかすり避けはだてじゃない!」
「あたらなければべつになんともない!」
「避けるんだ、よけて投げ続ければいつか勝てる!」
「よける、ぜんぶを避ければきっと何かあるよ!」
彼らは避けた…避けた……そして気が付いた…あぁ、避けるって楽しい…彼らは自分達が何をしているかを気づかずに
弾幕を作り続け、そしてとあることに気が付いた……あれ…そういえばなんでこんなに木の実が飛んでくるんだろう……
ふた一人が辺りを見回すと…もう、そこにはダンマルク爺はいなかった……変わりにあたり一面に木の実を投げまくる友達達がいるだけだった……
そして誰も近づかない切り株に一言……
「そぅ、そのよけの魂さえあればこの先にどんな困難があっても乗り越えられるであろう byダンマルク・サルケル」
結局、その広場には笑う子供達と、誰も気が付かない一つのメッセージが残っているだけであった……
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まぁ大体そんな感じだろう……ダンマルク爺は木の実弾幕をさけながら言葉を切り株に刻んだ後
弾幕を避けながら場所を移動、そして許容量を超える運動量の末に切り株に座り込んで、そして今に至る……
ダンマルク爺はふぅっと、溜息をはくと呟いた。
「いままで色んな危機があったのう……皆が一緒になって作ってきたこの藩国……
いつまで見ていられるかも分らなくなって来たが……」
今までこの国であったことを一つ一つ思い出しながらランドルク爺は一人呟き続ける…
「このよけ藩国に暮らし、避けることを信じる魂、それを忘れなければこの国はいつまでも続くであろう……
少なくとも今まではそうであった…全てよけの魂で乗り越えてこれた、ならばこれからも越えられない訳がないのだから。」
ランドルク爺はそう結ぶと、一人で納得が言ったような顔で頷き、そして歩き始めた、自分が帰るべき場所へと。
(神楽坂・K・拓海)