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ここは高位森国人+医師+名医+動物使いの追加要点ページです。

小さな小さなサーカス †

度重なる戦災で、焦土と化した海法よけ藩国において、人々だけでなく動物の命をも救おうとした医師達が居ました。しかし、外傷は治せても、心の傷までは、そう簡単に癒せません。医師達は苦悩します。心の支えを失った人と一緒に苦しんであげるだけではなく、外傷とともに心の傷も癒してあげることは出来ないのだろうかと。これは、そのなかの一人、イレーネ・ヨケールの物語。
御来場のみなさま、小さな小さなサーカス、これより開演となります。

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漆黒の闇の中、燃え盛る炎が森の木々をのみこんでいく。まるで生きているかのように、地を這い、木から木へ燃え広がっていく。よけ森に棲む動物達が、その炎と煙にまかれて、右往左往しながら。逃げ出してくる。ネズミ、山猫、よけタイガー、夜目がきかない小鳥達も、パニックをおこして闇雲に飛び回っている。そんな状況の中、必死に、人だけでなく、傷ついた動物達をも救おうとしている、女性が居た、年齢は28才、森国人医師、イレーネ・ヨケールその人であった。
「ちょっと!何よこの風!これじゃどんどん燃えちゃうじゃない…。消防署も無いっていうのに!」
おりからの強風にあおられて、森はあっというまに延焼して行く。
「文句言っても始まらない。動物達も助けなきゃ…。」
火傷を負って動けなくなった、山猫を保護して、次の救助を必要としている命を探し始めたその時、それまで吹き荒れていた風が急に止んだ。
「良し!これなら大丈夫、行けるわね。」
炎の通り道になっていた場所が、通れるようになったのだ。イレーネは移動を開始しようとしたが、急に動作を止めた。嫌な予感がしたのだ。いや、正確には腕をつかまれて引き戻された。その刹那、炎の渦がイレーネが元いた場所に襲いかかった。
「気を付けろ!死ぬ気か!?」
イレーネが振り返ると、そこには年の頃は30才程の、森国人ではあるが、少し体格の良い男が、腕をつかんで立って居た。
「…ありがとう。助かったわ…。私は、イレーネ・ヨケール。医者よ。貴方は?」
「今死にかけたってのに、自己紹介できるなんて、肝の強い人だな。俺は、フォーネ・ガストール。」
「ありがとう。フォーネ…。」
やれやれという感じで頭を掻くフォーネ。
「とにかくここを離れよう。ここは危ないから。」
フォーネに促されて、イレーネは次の救助活動に向かうことにした。

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一晩中燃える森の中で救助活動をして、夜も開けた頃。
「クソ!ほとんど燃えちまったな…。まだくすぶっているところもある。」
と憤りを隠せないフォーネ。
「でも助けられた命もあるわ。」
仮設の救護テントに、運ばれた人々と動物達を治療しながら、イレーネが不思議そうにフォーネにたずねる。
「フォーネ、あなたよけ森で何やっていたの?おかげで助かったけど…。」
「あっ、そうかまだ話してなかったな。俺はよけ森の外れで牧場をやってるんだ。それであの火災だろ?よけ森の外れでも、結構住んでる人は居るから。様子を見に来たんだ。動物達も気になったしな。」
頬についた煤を拭いながら、イレーネにも頬が煤けているのを、示唆する。
「そうだったの…。」
「ああ。小さい牧場だけど、今回の火災で燃えなかったのは救いだな。これで、まだ戦災で苦しむ同胞に、食料をわけられる。」
「お人好しね。じゃなかったら、私も助けてないか…。」
破顔するフォーネ。
「お人好しか…。それくらいでちょうど良いと思うよ俺は。おかげで貧乏だけどな。まあなんかあったら、牧場に来てくれ。金は貸せないけれど。」
「あら…。皮肉にも医者は大繁盛よ…。」
「そうだな。笑いごとじゃない。」
とそれまでの笑顔を曇らせた。

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イレーネは、フォーネと別れたあと、実家の病院に戻って来ていた。
「ちょっと!お父様!動物は駄目ってどういうことよ!」
お父様と呼ばれた男は、58才、名をエダス・ヨケールと言う。ヨケール病院の医院長であり、よけ藩でも名医と名高い人物である。
「イレーネ!医者が獣医の真似事か?病院に動物を入れるのか?」
エダスが、険しい顔でイレーネをたしなめる。
「同じ命じゃない!病院に入れなくても、簡易テントで良いのよ!治療させて!」
「駄目だ、ヨケール家は由緒正しい、医者の家系だ。動物は獣医にまかせなさい。」
いつものように、家系の話しを持ち出すエダスに、イレーネは猛烈に反発する。
「また家系の話し?家柄がどうしたっていうの?そんなものどうだっていいわ!今は手が足りないのよ!もういいわ!」
そうまくしたてると、イレーネはその場を立ちさった。
「イレーネ!」
エダスの呼び声は、イレーネに届いているはずであったが、イレーネが立ち止まることはなかった。エダスは、ため息をつきながら、愛娘の監視を護衛に告げると、一人考え始めた。
「イレーネ…。動物を助けたいのはわかる。だが、動物を診る病院に診察を受けるのを、良く思わない人もいるのを、わかってくれ…。」

数時間後、イレーネは、フォーネの牧場まで来ていた。
「実際、動物を病院に入れるのは、無理だと思う。熱くなってしまって…。だけど、それで終わるわけにはいかないのよ…。」
今は父からはなれ、冷静になったイレーネは、そうフォーネに切り出した。
「なるほど。それで、家の牧場を動物病院にしたいといったところかな?」
と、イレーネの話を先回りして答え、笑顔を見せるフォーネ。
「まあ。動物達もよけ藩の同胞だ。歓迎するよ。ちょうど、空いている納屋もあることだしな。」
「ありがとう。これから移送の手配をするわ。これからよろしく。」
「ははは。納屋の掃除しなきゃならないな。」
フォーネは、掃除道具を集め出した。
「あら。掃除くらいできるから、おかまいなく、私がやるわ。納屋って何処にあるの?」
そう言って、掃除道具を奪うイレーネ、名家のお嬢様といっても、家事は得意で、自分の面倒くらいはみれるのであった。
「そこの離れさ。ただのお嬢様ってわけじゃないな、やっぱり。」
「当たり前よ!実家は実家、私は私なの。」
こうしてフォーネの牧場に、臨時の動物病院ができることになった。

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動物達を治療するかたわら、実家の病院を手伝うイレーネ。そんなある日。病院で、カイトとアルナという。兄妹と出会った。兄は15歳、妹は12才だった。
「アルナ、散歩にでも行きましょう。良いお天気よ?」
「…行かない。」
アルナは何の表情も浮かべずに、そう言うと、ふさぎこんでしまった。
「アルナ、散歩ぐらい行こうぜ?」
カイトが心配そうに、アルナに声をかける。
「そうよね?カイト。」
「ああ。」
カイトも、アルナの手前元気に振る舞っていたが、心に傷を負っているのは同じだった。アルナとカイトは、先の戦災で家を焼かれ、両親はその時に、二人を守って死んでしまっていた。
「アルナ、猫が居るかもしれないぜ?」
「猫…?」
ふさぎこんでいたアルナが反応する。
「あら、猫好きなの?」
「ああ。気まぐれで、凛々しいところが好きなんだよな?アルナ。」
「…。」
「じゃあ今度会いに行きましょう。」
そう、アルナに約束して病院を出るイレーネをカイトが見送りに出てきた。
「ありがとう。先生。」
「いいえ。今夜は冷えるから、もう暖炉に火を入れた方が良いわね。」
気温が下がりはじめ、寒くなってきたのを感じて注意を促す。
「あっ。駄目か…。ごめんなさい…。アルナ、火を見ると、戦災を思い出して、怖がるのよね…。」
「ああ…。炎が俺達から全て奪っていった…。ささやかだけど幸せな生活、小さな家、優しい両親、アルナの心の平穏と表情までも…。」
カイトの目の奥で、憎悪の炎が燃えているかのように、イレーネには感じられた。
「カイト…。」
言葉を失うイレーネ。15才の子供にさせるには、あまりに不憫な表情だった。
「戦災にあう前は、アルナ明るかったんだぜ?歌が好きで、俺はオカリナで演奏してやってた…。」
「そうなの…。」
「…ああ。…俺は復讐してやる…。こんなことになった原因に…。今、武芸と詠唱の訓練してるんだ。兵士になるために。」
一陣の冷たい風が二人の間を吹き抜けていった。

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「そうか…。そんなことを言っていたか…。」
難しい顔をしたフォーネが、夕食のシチューを差し出す。
「ええ…。私は、いっしょに苦しんであげることはできるけど、失った心の支えの代わりになってあげることはできない…。かといって、このまま見てるわけにはいかないわ。どうしたら良いのかしら…。」
「先ずは、シチューを食ってからだ、腹が減ったら、出てくる考えも出て来ないぞ?何より冷めちまう。」
優しい笑顔で、フォーネが手に持っていたシチューをイレーネに押し付ける。
「…そうね。ありがとう。いただくわ。」
「歌えない小鳥に、人に憎しみを持つ山猫か…。イレーネは癒したじゃないか。それと同じだと、思うけどな。」
「小鳥に山猫って、アルナとカイトのこと?」
シチューを食べるイレーネを見ながらフォーネは話しを続ける。
「ああ。動物達は素直だ。イレーネの優しさが伝わったから、今心を許して治療を受けてるんだろ?」
「それは…。そうかもしれないけど、動物達は自力で治ったのよ…。私は外傷を治しただけ…。」
「いっしょに苦しんでくれるだけでも、心強いものだと思う。」
「現実はそうよ、でも私は心を癒してあげたいの…。ありがとう。おいしかったわ。動物達の治療に行ってくるわね。」
シチューを食べ終えたイレーネは、気持ちの整理がつかないまま仕事に向かった。

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いつもと様子の違うイレーネの気配が伝わるのか、動物達も落ち着かないようであった。食べる食べられるの、種族をこえて、みんなイレーネのことが心配なようで、周りに集まって、まるで励ましているかのように見える。しかし、イレーネ本人は、考え事と治療に没頭していてそれに気づいていない。
「みんな…、お話しを聞いてくれる…?」
イレーネは、誰に聞かせるわけでもなく、自分に言い聞かせるように、話し始めた。
「歌えない小鳥に、人に憎しみを持つ山猫の話を…。」
小鳥達が身を寄せ、山猫が目を細める、動物達がじっと聞き入り始める。
「あるところに、非常に仲の良い動物達が居ました。ささやかだけど幸せな生活、小さな森、優しい二匹の猫、元気な小鳥は明るく歌を歌い、腕白な山猫はそれに合わせて、喉を鳴らします。…しかし、そんな楽しい日々も、終わる時がやって来ました。人間がやって来て、戦争を始めたのです。森は焼かれ、二匹の猫は、小鳥と山猫を守って死んでしまいます…。」
動物達は、水を打ったように静かに話しを聞いている。イレーネは、淡々と話を続ける。
「元気で明るく歌を歌っていた、小鳥は歌を歌えなくなり、炎に襲われる悪夢を見るようになりました…。腕白な山猫は人に憎しみを持つようになりました…。私は…、私は小鳥と山猫に何をしてあげられるのかしら…。」
イレーネが、そこまで、話した時だった。
「にゃん!にゃん!ちゅー!」
一匹のネコリスが、イレーネの前に進みでた、怒っているようでもあり、励ましているようでもあった。おそらくそのどちらも正しいのであろう。
「ネコリス…?私の話を聞きに来たの…?」
少し大きなネコリスが慌てて、イレーネの前に進みでたネコリスを連れて離れる。イレーネが周りを見ると、何匹かのネコリスが、集まって来ていた。
「にゃんにゃんちゅー!」
先程のネコリスが、何かを指し示している。
「何…?ちょっと!あなたそんな芸いつ覚えたの?」
見ると、一匹のネズミがボールに乗って、器用に玉乗りをしている。まるで、イレーネを励ますように。それを見たイレーネの脳裏に閃くものがあった。
「ねえ、お願いがあるんだけど、その芸子供達にも見せてあげてくれない?」
「チッ、チュー!」
「ゴロゴロゴロ…。」
「ピピピッ!」
ネズミどころか、他の動物達も同意したかのようだった。イレーネがネコリスを見ると、ネコリスは頷いてみせた。
「ありがとう。みんな協力してくれるのね?」

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「アルナ、カイト、夕飯よー。お父さん、呼んで来てくれる?」
「はーい。行きましょ。お兄ちゃん。」
「俺が呼びに、行くから、アルナは待ってろよ。」
「えー!私も行くー。」
「いいから、ここに居ろ。良い子にしてるんだぜ?」
「また子供扱いしてー。」
夢の始まりはいつも同じ、幸せな日常。しかし、それももうすぐ終わる事がわかっている。カイトが、父を呼びに行って、戻って来ると、戦災で家が燃えているのだ。母に守られた、アルナはまだ、燃え盛る家の中にいる。
「カイト!お前はここに居ろ。俺が助けに行く!」
「親父!」
カイトが、声をかける前に、父は家の中に飛込んでいた。カイトがそれに続く。アルナと母を助けた父が、脱出しようとしたその時、焼け落ちた梁が四人を襲う、そして…。
「アルナ!大丈夫か!アルナ!」
そこで、目が覚めた。
「お…兄ちゃん?」
夢を見てうなされていたアルナを、カイトが覗き込んでいる。アルナは、前にもこんなことがあった気がしたが、詳しく思い出せなかった。苦しかったが、泣きたくても泣けなかった。
「……。」
「また、夢を見たのか?」
そう言う、カイトはどうやら先程まで訓練をしていたようだった。
「ここに居るから…、寝れるならもう一度寝たほうがいい。」
カイトはアルナを再び寝かしつける事にした。

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「小さな小さなサーカスか…、俺は、ピエロってところかな?これでも、手先は器用なんだ。ジャグリングや手品くらいできるぞ?」
話を聞いたフォーネは、ピエロの衣装などを用意していた。
「…ちょっと!鞭って…、フォーネ…。」
「待て待て…。叩くんじゃない、風切り音で合図を送って指揮するんだ。らしいだろ?」
笑うフォーネ。
「なるほど…。子供達喜んでくれるかしら?」
「大丈夫。喜んでくれるさ。さて、練習練習!動物達の得意なことに合わせて芸を考えなきゃな。」
イレーネ達は、サーカスを開くために、準備を始めることにした。澄んだ冷たい空気に天気は晴れて、空には星が瞬いていた。

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それから、数日の後、イレーネ達がサーカスを開く準備を終えた、その日の夜。アルナとカイトは、イレーネに病院の庭に、案内された。満天の星空だった。
「一体何が始まるんだ?先生…。」
「約束したでしょ?猫に会いに行こうって…。今日は来てもらったの、山猫とみんなに…。」
「山猫とみんな?」
カイトが首をかしげる。
「小さな小さなサーカスへようこそ!」
イレーネがそう言うと同時に、街灯に灯りがともる。そこには、ピエロになったフォーネと、動物達が居た。
「うお!?サーカス…?」
「ええ、そしてあなた達が今日の観客よ。」
「おい!アルナ!見ろよ!山猫だぜ?すげえ。ネコリスまでいる。」
「山猫…。」
表情こそ変わらないが、アルナは動物達に興味をひかれているようだった。
「小さな小さなサーカス、これより開演となります。」
イレーネが指揮鞭を取り、演目が始められた。フォーネが華麗に、ジャグリングを決めたと思うと、それを、ネコリスが邪魔する。追いかけっこの、パントマイムが始まった。
「見てるかアルナ?ははは!ピエロが壁にぶつかって、ネコリスに逃げられたぜ?」
「…。」
無表情ではあるが、アルナの視線は、サーカスへ向けられていた。彼女なりに楽しんでいるようだった。
「…パン!!」
鞭の先が空を切り、乾いた音を立てる、イレーネの指揮鞭に合わせて、動物達が巧みに芸を披露する。しかし、鞭が動物達に触れることはない。ネズミの玉乗り、よけタイガーの煉瓦割りなど、演目が次々に演じられていく、そして…。
「本日のメインイベント!山猫の火の環くぐり。その前に、私が華麗にくぐって、見せましょう!」
ピエロに扮したフォーネが、おどけてそう言うとアルナに緊張が走る。
「嫌…。」
「大丈夫…。怖くない…。」
真剣な表情のイレーネを見て、カイトがアルナを抱きしめる。
街灯が消えまた辺りは、星の光だけになる。そして、火の環に火がつけられた。赤い炎が揺らめく。フォーネはピエロらしく失敗。
「あちっ!あちっ!尻が燃えた!」
と、水の入ったバケツに尻を突っ込んで笑っている。
「いよいよ本番です。山猫の火の環くぐり。成功したら、拍手喝采!」
イレーネの鞭が鳴る。山猫が颯爽と駆け抜け火の環をくぐる。そして、アルナの前に進み出ると、心配そうに喉を鳴らした。その目には、火の環の炎が写り込んでいた。
「山猫…。お兄ちゃんみたい…。」
アルナがぎこちなくも笑顔をみせる。そして、一筋の涙が流れた…。
「アルナ!?」
「思い出した…。」
驚くカイトに、アルナは話しを続ける。
「お父さんと、お母さんが死んだ、あの時も、お兄ちゃん私を助け出してくれた…。そして、いつも一緒に居て心配してくれてた。だけど…。」
アルナは、言葉を区切ると、泣き出した。
「だけど…。お兄ちゃん、兵士になるって、変わっちゃった…。もし、お兄ちゃんが死んだら、私は一人になっちゃう!私は一人になりたくない!」
「アルナ…。」
二人の周りに、動物達が集まって来て居た。まるで炎の記憶から守るかのように。
「サーカスの真似事か?」
アルナとカイトを見守って居た、イレーネに、静かに声をかける人物が居た。珍しく笑顔をみせるエダスである。
「真似事ではありません、サーカスです!小さな小さな…。」
イレーネは、そう言い放った。

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“肌をさす冷たい空気
 雲のない澄んだ空
 大地は眠り
 春を待つ

 寒さに凍え
 身を寄せ合う
 一人じゃないと気づかされる
 そんな冬が私は好きだ

 森を覆う白銀の絨毯
 また芽吹く緑
 忘れないで一人凍える夜も

 草木萌える春を待とう
 貴方とともに
 暖かな炎の記憶”

アルナとカイトが、フォーネの牧場に、通うようになり、アルナは好きだった歌を歌えるまで回復し、カイトはそれに、オカリナで伴奏をつけていた。二人の母が残した歌だった。
「元気に、いや…。強くなったな、二人とも。」
「ええ。みんなのお陰ね。…私、旅に出ようと思うの…。まだまだ、心に傷を負った人達が居るはずだから…。」
「動物達も連れて行くのか?」
「いいえ。みんなには、みんなの生活があるもの。」
イレーネが、そう言うと、山猫がイレーネの肩に乗り喉を鳴らした。他の動物達も、イレーネを見つめている。
「にゃんにゃんちゅー!」
ネコリスが手を振った。別れを告げているようだった。
「…みんな、ついて来てくれるの?…ありがとう。」
イレーネは、山猫を撫でながらそう言うと笑った。
「蓄えもなくなったし、牧場は閉鎖…。飯が食えれば良いから、俺も雇ってくれないか?」
「…フォーネ。ええもちろん…。」
「行っちゃうの?」
「抜け駆けはなしだぜ?歌と演奏が出来る俺達も連れて行ってくれ!」
アルナとカイトが、イレーネに詰め寄る。
「カイト、死んだ者を忘れろとは言わないわ…。だけど生きるもののために戦ってくれるかしら…。殺すために戦うのではなく、生かすため、守るために戦って。それが出来るなら、一緒に行きましょう。」
イレーネは、アルナを見ながらそう言った。
「わかってるって!約束だぜ?」
「ええ。」

イレーネ達が、ネコリスに見送られて、旅だったそのころ。
「これでまた、孫の顔を見れるようになる時期が延びた…。」
護衛からの、報告を聞いた、エダスは、そう言って、苦笑すると。
「イレーネ達を、陰から、バックアップしろ!ヨケール家の威信にかけて!」
そう護衛に命じた。それからしばらくして、心も癒す医者の噂が聞かれるようになったという。寒さも緩み始め、春は、もうすぐだった。

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かくして、アルナとカイトの心を救い、旅に出たイレーネでありますが、これが後に広まる、動物使いの興りであると言われています。御来場のみなさま、長い間おつきあい、ありがとうございました。これにて、小さな小さなサーカス閉演とあいなります。イレーネ達のその後につきましては、また別のお話。機会があったらまた、お話いたしましょう。

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Last-modified: 2011-05-21 (土) 06:23:00 (3447d)