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海法よけ藩国…。

我が国は、NWにおいて、あらゆるものを「よけ」てきた、襲いくる敵、罰金による藩国滅亡、名前を呼んではいけないものの襲撃、ネコリスの森の危機、舌禍事件による藩国滅亡、クーリンガンの魔手、ハーフエルフ問題、巨大ドッグと多重債務国家問題、こまかいものも数え上げればきりがない。

それでも、なぜ「よけ」るかといえば、結局のところ、誰かが悲しむのを見たくなかったのであろう。
どこかの誰かの不幸を「よけ」たい、ただそれだけ…。

守ってやるなどという傲慢ではない。
どこかの誰かには、自分も入っているはずだから。
ご先祖様や、周りの皆さんに、助けてもらってきたから。

だから、今の我々があるのだから。

私に…。我々に「よけ」られないものはなにもない!!

~エダス・ヨケールの手記より~

長らくお待たせいたしました。
御来場のみなさま、小さな小さなサーカス ~よけ国民の心~、これより開演となります。

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その日、エダス・ヨケールは、非常にいそがしかった。
自分の病院に、患者が次々と運ばれてきていたからだ。
「なにをやっている!搬入急げ!死神の鎌をよけるのだ!この忙しい時に、イレーネは何をやっているんだ!?」
エダスは、医師たちにそう檄を飛ばすと、自らも患者の治療をはじめた。
海法よけ藩国でも、名医と名高いエダスの治療は的確で、瞬く間にやけどの治療を終えると、次の患者の治療にとりかかる。
「むっ!?これは…。うちの病院では下手に手出しできんな…」
応急処置を施しながら、エダスは、救急車のパイロットを呼びつける。名医ゆえに、自分の力量は把握しているのであった。
「君!黒崎医院の受け入れ状態はどうなっている?」
「はい!現在、重症患者の受け入れを、優先的に行っています。軽傷者には、青十字の常備薬を配布しておられます」
「よしわかった。この患者を黒崎医院に搬送してくれ。かわりに、軽傷者はうちにつれてきてくれ。市民病院も、受け入れ先としてあとどれくらい搬送可能か、問い合わせて欲しい」
「了解です!ただちに搬送します」
パイロットは、患者を慌ただしく、しかし丁寧に救急車に載せると、黒崎医院に向かって走り去った。
「黒崎夫妻なら大丈夫、何とかしてくれるだろう…」
治療を続けると、しばらくして森国人+医師+名医+マッドサイエンティストのアイドレスに身を包んだ政庁職員が、数名応援に駆け付けた。
「はじめまして。エダス先生、私は不離参と申します。数名ですが、政庁から応援に参りました」
「あいさつは後だ!!早速、治療にかかってくれ。手が足りなさすぎる」
「はい!了解しました」
その日の治療は、翌日の明け方を過ぎても続けられた。

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「やれやれ…。ひどい有様だ…」
治療を終了し、苦虫をかみつぶしたような顔で、エダスが、汗をぬぐう。
周りを見渡すと、病院の外にまで負傷者があふれている。
「すみません。我々が、クーリンガンの侵攻を防ぎきれずこのようなことに…」
不離参が恐縮しながら、エダスに謝罪する。
「正直、第7世界人は迷惑な存在ではある。だが、裏を見て表が無いというのは、愚かだ。たしかに、第7世界人は戦いを呼ぶ。だが、海法 紀光陛下や、黒崎先生を見ろ。それを信じる海法ゆかり王妃を、ソウイチロー・黒崎先生を見ろ」
「はい」
「事は、第7世界人だけのことだけではない、我々、NWに住む者、みんなの問題だ。第7世界人が居なくなって、それで平和になるなら話は簡単だ。お前たちが、ここから立ち去れば良い。だが、そうではないのだ」
エダスは、不離参を庭のベンチに促した。
「居なくなるならば、お前たちは、NWを平和にしてから、居なくならねばならんのだ」
「はい。努力いたします」
「うむ。さてそろそろ、休ませてもらうぞ?黒崎先生にはよろしく言っておいてくれ」
そういうと、エダスは、自室に向かって歩いて行った。
不離参はただ、頭を下げているばかりだった。

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エダスは、院長室で、また苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
「ちょっと!お父様!動物は駄目ってどういうことよ!」
愛娘のイレーネが、いそがしい時に、どこに行っていたのかと思えば。
帰ってくるなり、動物を診察させてくれと言い出したのだ。
「イレーネ!医者が獣医の真似事か?病院に動物を入れるのか?」
エダスが、険しい顔でイレーネをたしなめる。
「同じ命じゃない!病院に入れなくても、簡易テントで良いのよ!治療させて!」
エダスには、イレーネの気持ちがわかったが、厳しく反対した。
「駄目だ、ヨケール家は由緒正しい、医者の家系だ。動物は獣医にまかせなさい」
「また家系の話し?家柄がどうしたっていうの?そんなものどうだっていいわ!今は手が足りないのよ!もういいわ!」
機関銃のようにまくしたてると、イレーネはその場を立ちさった。
「イレーネ!」
エダスの呼び声は、イレーネに届いているはずであったが、イレーネが立ち止まることはなかった。エダスは、ため息をつきながら、愛娘の監視を護衛に告げると、一人考え始めた。
「イレーネ…。動物を助けたいのはわかる。だが、動物を診る病院に診察を受けるのを、良く思わない人もいるのを、わかってくれ…」
その時、院長室の入口から、不離参が、入れ違いに入ってきた。
「何事ですか?」
「…いや、恥ずかしい所をお見せした。娘が、動物を診察させてくれと言うので、たしなめたところだ」
「動物を、ですか…」
「…娘の言いたいことはわかる。ただ、ここは人を診る場所だ。動物を診たのでは色々と問題がある」
「はい。では政庁の方でも、何か御手伝いできないか、相談してみます」
「頼めるかね?」
「はい。最善を尽くします」
「そうか」
エダスは、不離参を見ると笑顔を見せた。

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患者の治療を続けるエダス。そんなある日、ヨケール病院に、カイトとアルナという。兄妹がやってきた。兄は15歳、妹は12才だった。

カイトとアルナは、先の戦災で家を焼かれ、両親はその時に、二人を守って死んでしまっていた。
「カイト、アルナ気分はどうだい?」
エダスが声をかけるが、アルナは反応しない。
「アルナ?気分はどうだ?」
「…」
兄、カイトの声にも身じろぎしないアルナの姿に、ため息をつくエダス。
「駄目か…。エダス先生ありがとう。イレーネ先生も来てくれてるんだ」
「そうか…。イレーネが来てるのか、まあ、ゆっくり休むと良い。あまり、焦らずにな?」
「はい。先生」
エダスは、カイトに見送られて病院を出た。
「先生…。聞きたいことがあるんだ…」
「なんだね?」
「先生は、何で第7世界人と普通に話してられるんだ?あんな化け物…」
「化け物か…。確かにそうだな」
「なら何故?」
カイトが、エダスに詰め寄る。
「殺しても死なない。姿もころころ変わる。でも心は私たちと同じだからかな…」
「心は同じ?」
「ああ、同じだよ。心は弱い。むしろ、我々よりも」
「…そうか」
「今度、話してみると良い」
そういうと、エダスは、二人を病室へ連れて行った。

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不離参は、フォーネ・ガストールの牧場にやってきていた。
「イレーネ先生、政庁からの支援物資をお持ちいたしました」
そういうと、医療品と医薬品を、フォーネの家の臨時動物病院になっている納屋に並べ始めた。
「ご苦労様…。ありがとう。人に使う分も持ってきてくれたのね?」
「はい。急病人が出た時、利用できるようにと思いまして。このあたりは、住居は少ないですが、人が結構残っていますので…」
「そう…」
イレーネが、笑顔を見せる。
「イレーネ。お客さんでも来てるのか?」
納屋の入口から、森国人にしては、少し体格の良い男が顔を見せた。
「不離参さん、こちら、ここを貸してくれてる、フォーネよ」
「お邪魔しております。私は政庁の職員の不離参と申します。よろしくお願いいたします」
不離参が、深々と頭を下げる。
「…そうか。よろしくな、不離参さん。どうだ?お昼でも食べていかないか?よけチーズとよけ鳥のサンドウィッチなんだが…」
「ご迷惑ではないですか?」
「そうね。不離参さんも、御一緒にどうぞ。話したいこともあるから、遠慮なさらずに」
イレーネが、不離参を促す。
「はい。それでは、御一緒させて頂きます」
不離参は、フォーネの家に促されると、サンドウィッチを食べながら、話を始めた。
「陛下と黒崎先生、そして政庁の職員たちからも、『動物たちも助けてくれて有難うございます』と、伝言を預かってきました。私からも、御礼申し上げます」
「私は、やらなければならないことをやっただけよ。こちらこそ、ありがとう。それに、フォーネが居てくれなかったら、危なかったのよ?よけ森で、炎に巻かれていたかもしれない…」
イレーネが、フォーネの方を見る。
「いや俺は…。ただ、よけ森の様子を見に行っただけだよ。たまたま、通りがかっただけさ」
「たまたまでも、助けたことには変わりありませんよね?お二人とも、ご無事で何よりです」
「その通り。フォーネありがとう。」
「……はははっ。どういたしまして。」
と、フォーネが恥ずかしそうに、お礼の言葉を受け取って笑った。

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エダスは、最近ハーフエルフが増えているという話を聞いて、ひとり考えていた。
もちろん、それもあるだろうが、たんに国際結婚が増えているわけではない。
戦災による貧困、共和国環状線の敷設による旅行客の増加などの要因。
飲み屋や、いかがわしい店で働かねばならない、もっと言うならば娼婦にならなければならない人たちも出てきていたからである。
「エダス先生はおられますか?」
その日、海法は、病院の視察に来ていた。
「これはこれは、陛下、ようこそおいでになりました」
エダスが丁重に、院長室に海法を迎え入れる。
「何か、困ったこと、足りないものなどありませんか?あるようなら、政庁までご連絡いただきたく」
「いえ、おかげさまで、今のところ困ることはありません。…ただ、少しお聞きしたいことがあります」
「私で答えられることなら、どうぞお聞きください」
海法がそう答えると、エダスはハーフエルフ問題について、聞き始めた。
「陛下は、ハーフエルフ問題について、どうお考えですか?」
「国民が増えることは嬉しいことです。ですが、貧しい母子家庭、人種差別などの問題が出ないようにしなければなりません。それについては今、法案を練っているところです。法案によってさらに身を墜さずにすむように。また、巨大ドッグをハーフエルフの方々の働き口として提供することも進めています」
海法は、熱心に将来への展望を語った。
「また、貧しい子供たちに、ぬいぐるみをプレゼントしようという企画が、黒崎先生によって進められています」
「なるほど。安心いたしました」
エダスは、海法の説明を聞いて、険しかった表情を緩めた。
「エダス先生、居ますか?アルナが昨日の夜…!?」
その時、カイトが院長室に入って来きて、海法に気付くと話すのをやめた。
「おお、カイト。こちらは、海法 紀光陛下だ、知っているだろう?」
「ああ…」
ばつが悪そうに、カイトが返事をする。
「エダス先生、こちらの少年はもしかして…?」
「…ああ。ご想像の通り。先の戦災の被害を受け。うちの病院に入院しているカイトと言います。アルナという妹がいます」
海法は、カイトを見ると、深々と礼をして、謝罪をはじめた。
「申し訳ない、我々の力が足りずに…」
「…」
「陛下は、視察に来られたんだ。何か話したいことはないかい?」
「親父と、かあさんはなぜ死ななきゃならなかったんだ?」
カイトは、そう海法に質問すると海法の目を見つめた。
「我々の責任です。本当に申し訳ない」
「…クーリンガンのせいにしないんだな…」
「はい。我々は平和を望んでいます。戦いを起こすのは本意ではない…。戦いが起こってしまう、それが事実です。もちろんクーリンガンはテロリストであり、許せぬ存在です。ですが我々にも、もっと防ぎようがあったはずです…」
しばらく、沈黙が流れる。
「…そっか」
そういうと、カイトは、院長室を後にした。

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その日の夜、ヨケール病院の庭に、小さな小さなサーカスが開演した。
エダスは、イレーネにつけた護衛から、話を聞きつけ、政庁と話をして、森国人とハーフエルフの子供や親を呼び集めていた。
エダスからの打診を受けた政庁は、フォーネにサーカスの器具を支援したり、人種を問わず参加者を、集めるなど、裏に表に奔走した。
「イレーネ、頑張れよ…」
エダスは、そう呟くとサーカスを見ることにした。
「すごーい。ネコリスだ!」
「よけタイガー。カッコいい!!煉瓦割ってる!!」
「ネズミが玉乗りしてる!!」
森国人の子供も、ハーフエルフの子供も、関係なく、皆仲良くサーカスに見入っている。
そもそも、子供には、大人の偏見などないのだ、あるがままを見る。
親が差別すれば、子供が真似をするそれだけである。
そんな光景を見て、差別を恥ずかしいと思う。
自分は、誰かに生かされている。
誰かが悲しむのは、見たくない。
それこそを「よけ」るのが…、歴史や文化の積み重ねによる想いが、どこかの誰かの悲しみを「よけ」る優しさと厳しさ、そして勇気となる。それが、よけの心である。
大盛況のうちに、サーカスは閉演した。
アルナとカイトの心を救い。多数の森国人とハーフエルフ、そして政庁の職員の心をつないで。
「サーカスの真似事か?」
アルナとカイトを見守って居た、イレーネに、静かに声をかけるエダス、珍しく笑顔である。
「真似事ではありません、サーカスです!小さな小さな…」
イレーネは、そう言った。

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「これでまた、孫の顔を見れるようになる時期が延びた…」
護衛からの報告を聞いたエダスは、そう言って苦笑した。
イレーネ達が、旅に出るのだ。
「イレーネ達を、陰から、バックアップしろ!ヨケール家の威信にかけて!」
エダスは、そう護衛に命じた。それからしばらくして、エダスは心も癒す医者の噂を聞くことになる。寒さも緩み始め、春は、もうすぐだった。

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かくして、歴史や文化の積み重ねによる想いが、どこかの誰かの悲しみを「よけ」る優しさと厳しさ、そして勇気、それが、よけの心であると言われています。御来場のみなさま、長い間おつきあい、ありがとうございました。これにて、「よけ国民の心~「小さな小さなサーカス」より」、閉演とあいなります。エダスのその後につきましては、また別のお話。機会があったらまた、お話しいたしましょう。

(不離参)

Tag: EV137 SS

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Last-modified: 2011-05-21 (土) 06:23:36 (3014d)